群青のマグメル ~情報収集と感想

『群青のマグメル』と第年秒先生を非公式に応援

群青のマグメル第85話感想 ~意地

第85話 今日ではない 12P

前回絶体絶命かと思われたクーでしたが、何とか踏みとどまります。しかし依然として状況は絶望的です。

実力者としての意地

多数の構造体に刺し貫かれたクーの意識が死の淵に沈みかけます。幼い頃に病気で死に瀕して以来、身内への遺言について考えてきたことが回想されます。ただ、遺言とはいっても内容はシリアスでなくコメディ調です。大怪我とはいえ聖国真類である以上そうそう致命傷になるとは思えなかっただけに、ここであえて緊張感を解いておくのは面白い趣向だと感じました。遺言の相手が友人とは認めていなくとも喧嘩相手ではあるヨウに移り、引き続いてのコメディ調で遺言を一度否定して、思い直して遺言の内容を考えることで軽くしんみりさせ、さらに思い直してこの場での遺言を改めて否定し、立ち上がります。感情の起伏の流れが丁寧です。倒されかけてから持ち直す定番の展開がちゃんと盛り上がるシーンになっています。クーがヨウの助けも借りて砲弾にされた子供を救出する見せ場も、展開の流れに乗っていて格好良いです。実力者としての最低限の面目が立つだけの意地は見せてくれたと言えるでしょう。

救命者としての意地

しかし切羽詰まった状況で全くの他人を救おうとしたばかりに深手を負った事実に変わりはありません。ヨウがクーを「馬鹿」と評したのも当然です。もっとも、この「馬鹿」が否定的な意味ばかりでないことは、言ったヨウも聞くクーも了解しています。クーのお人好しぶりを確認したヨウが、改めて拾人館への勧誘の言葉をかけたのは未来の感じられる良い会話です。クーの「社長を譲るなら考えてやる」という返答も頼もしいです。強者には相応しからぬ人の良さなのか、優しさ故に得られた強さのかはともかく、自分の甘さを実力でカバーする意地が感じられます。強さと甘さ・バカさの対立や両立は、第8話の拾因の言葉や神明阿アススのエピソードにより『群青のマグメル』で度々示されるモチーフです。

黒獄小隊としての意地

対して、命こそ奪えなかったものの、子供砲弾でクーに深手を負わせた黒獄小隊の面々は余裕たっぷりの態度です。あくまで立ち向かおうとするヨウとクーに、リヴが内心毒づく際の性悪具合がいい意味で悪役らしくて楽しめます。手段を選ばないのは、ただ加虐を楽しむばかりでなく、組織の一員として任務遂行にかける意地のためでもあるのでしょう。楽観と悲観、10分と10秒という言葉選びの上手さが押し付けがましいものになっでいないところも素晴らしいです。

群青のマグメル第84話感想 ~可能性を繋ぐ

第84話 悪役の手 16P

第80話の続きとなるヨウたちサイドの回です。絶体絶命の危機に追い込まれます。

心の通じぬ敵

泡沫の遊びの構造主であるリヴが敵の指揮をとります。のんきに作戦について話し合い、子供砲弾という悪辣な手段を取り、ヨウたちを舐めきって弄ぼうとしていることをじっくりと見せつけてきます。圧倒的に不利なヨウたちはそんな敵に対して受け身に回るのが精一杯の状況です。

リヴがひたすら嫌な敵である点はキャラが立っていて面白いです。黒獄小隊が一度に13人も出ている状況ながら、全く埋もれていません。心中での実はいい人アピールと正当化の言い訳という自己欺瞞が、まさに欺瞞のための欺瞞という感じにノリノリで堂に入っているところもイカしています。同じく悪趣味な作戦を楽しんでいるミミカや、良心というより趣向の問題で不満をあらわにしている夕国など、他の隊員の反応も個性が出ていて興味深いです。

情を捨て切れぬ

クーは見知らぬ他族とはいえ子供を見捨てきることができませんでした。一旦は子供の体に刺さった構造物を吸収して放り出すものの、すぐに喰い現貯める者から出した鎖で拾い上げてしまい、隙をつかれて構造物で串刺しにされます。超級危険生物の聖国真類である以上致命傷ではないはずですが、ただでさえ勝ち筋の見えない状況での深手は絶望です。
クーはスペック的には普段のヨウより格上のはずなものの、良かれ悪しかれ理想主義な性格であるゆえかいつも活躍しきれないところがあります。体はボロボロですがヨウにも力と知恵を絞ってもらうほかないでしょう。神明阿アスス戦の中盤以降と似た状況になっています。しかし戦闘力の乏しい少女のゼロと違ってクーは実力者なので、やむを得ない状況とはいえただの足手まといになれば格が落ちます。できれば手負いのヨウとクーでうまく協力してこの場を切り抜けてほしいです。

空間の隔離と接続

泡沫の遊びの内部は空間的に隔離されていますが、外の様子をうかがうことはできます。そこからヨウは時間を稼げば応援が期待できると推測します。現状のヨウたちで黒獄小隊を全滅させるのは難しいので、それが勝ち筋でしょう。しかし、カーフェは前回で聖国真類の捜索隊を罠であるクエスタの巣に誘導し、今回でリヴに20分程度時間を稼ぐよう事前に命令していたと判明しました。ヨウたちが助かるためには自分たちで何とかして攻撃をやり過ごすだけでなく、泡沫の遊びを早めに解除させるか捜索隊に罠を回避してもらうかのどちらかが成功する必要があります。泡沫の遊びは強者を捕らえるほど消費が激しいそうなので、もしティトールがゼロの体に意識を接続してくれるならば幻想の維持時間を狂わせられる可能性があります。ただしティトールも絶体絶命の状況にあり、この作戦を取るなら彼女に相当の負担をかけてしまいます。

神明阿当主と戦う本体、泡沫の遊びのゼロ、人界で絵本を描こうとしている女性と、現在舞台となっている3ヶ所を繋いでいるティトールはこの錯綜した状況の要です。

また、可能性としてはヨウが因果限界に目覚めることもありえます。この場合はティールとクーにいかに見せ場があるかが話を楽しむためのポイントになりそうです。

群青のマグメル第83話感想 ~追う者と追われる者の思惑

第83話 優先順位 12P

第80話以来に聖国真類の強者会の動向が描かれます。複数の局面で事態が進行する興味深い状況ですが、減ページが続く中では少々もどかしくもあります。

地下の捜索隊

ティトール・ヨウ・クーを捜索する部隊の直接の指揮は引き続きサイが取っています。第80話での様子も合わせて考えると、黒い上衣で、中心に縦線が走った円形のバッジらしいものを左胸につけているのが部隊の正規のメンバーのようです。彼らは聖国真類の軍や警官などに相当する身分か、強者会直属の組織の人員なのでしょう。ただ、この制服らしい格好でない真類もミュフェを含め数人が捜索に参加しているので、彼らの社会での身分や職分が厳格に分離されているわけではなさそうです。強者会という統治組織の性質からしても、原則より個人の裁量や実力に重きを置く傾向はかなり強いと思われます。

また、今回の冒頭では『群青のマグメル』という作品の性質を考えるにあたって興味深い場面があります。聖国真類が使役するハリモグラに似た巨大生物が地中を掘り抜けてから捜索隊を体外に降ろすまでの一連の動きが丸々2P費やされてじっくり描かれています。架空の生物と架空の民族の生活での関わりはファンタジー要素の強い冒険ものの魅力であり、それが説明でなく描写によって丁寧に表現されていると感じました。話のつかみに相応しく力の入った場面だといえます。この後の捜索隊を背に乗せて地下空洞を前進する様子も印象深いです。

地下と地上の強者会

強者会のメンバーの描写も丁寧です。

職務は堅実に果たしつつ私生活での天然ぶりがうかがえるサイは相変わらず面白いです。

対して、フォウル国との同盟に反対するなどヨウたちの邪魔かつ粗暴な振る舞いの目立っていたトワは、彼なりに分別のあるところが描かれます。親しみの持てる新たな面が見えてきました。チンピラめいて偉ぶっている風なキャラだけに、クーと自分の実力について正確に把握できていると判明したのは好印象です。差し迫った状況である以上、味方につけようとしている相手が無能かどうかは好感を左右する重要なポイントになります。ラーストの口車に乗せられ気味な小物っぽさも、作戦遂行にプラスに働いている間は愛嬌として好意的に受け取れます。

乗せている側のラーストは流石の強者会主席らしい有能ぶりを発揮しています。クーの潜在力を一族の繁栄に関わるものと判断し、必要ならば孫の命より優先できると断言する冷徹さも立場に相応しいものです。いわゆる人間味のないキャラクターが、いけすかないが偉大な先達でもあるポジションについているのはいいですね。クーの実力を認めつつ自分の遥か下と認識しているのも、反感を覚えるよりむしろいつか越えるべき壁としての高みにワクワクできます。強者会入りを目指すクーを応援するにあたって燃える要素です。

カーフェの思惑

逃走中のカーフェは完全に振り切るための計画があるようです。まだ誘拐犯としての正体もバレていませんし、打てる手は多いですね。今は超級危険生物(クエスタ)の巣を目指していますが具体的には何をするつもりなのでしょう。捜索隊のひとりがショック状態に陥ってしまったことも意味ありげです。地下空間に毒が含まれていたとはいえ構造者にはあまり関係ない程度だったはずですが、もしそれが効いてしまったのだとしたら、やはりカーフェの策略が影響しているのでしょうか。

群青のマグメル第82話感想 ~先代の想い出

第82話 百年の先 16P

今回は本編に戻って第82話です。話も第81話の直接の続きです。ティトールが端末に描かせた自伝的な絵本の内容の詳細が判明します。

一族の想い出

主人公の妖精少女が父親の首を切断したのが明かされる第81話のヒキは衝撃的でしたが、今回はまず絵本の序盤のゆったりした内容から説明が始まります。ひたすらに「普通」の日常が続く部分は、エッチな本が目当てだった青年は退屈に感じられたようです。日記に近いというのもいい意味ではないでしょう。ファンタジーの日常もの・生活ものはそれなりにファンのいる分野なので、ほとんど売れなかったのはアピール力含めティトールの実力不足が原因ですね。ですがその絵本で描かれている日常とは原皇ティトールがただの子供だった頃の日々であり、それを知っている身からするとノスタルジーめいた興味が否応なくそそられます。

ティトールの子供らしい体型や一族の友達と遊ぶ仕草、彼女の能力である仮面の構造に目覚めた様子、一族の親子らしい2人が手をつないでるところ、数々の挿絵には荒々しいタッチであるがゆえに想像力が掻き立てられ、切なささえ感じます。他人の受けを意識してデフォルメされていないからこその生に近い日々の細やかさや実感の描写は、フィクションという表向きのままでも一部の好事家にはたまらない表現となっていそうです。そちらに関心のない読者である若者も、クソ本と評価しつつも妙に惹きつけられるリアルさを心に留めています。

さらに、かつて侵略された一族の当事者が、自身を主人公のモデルにして今は失われた里の日々を描いたという点を踏まえて良いとするなら、その資料的価値は計り知れません。個人的に、今まで出てきたマグメルの秘宝の類の中では一番手に入れてみたいと思いました。

父親と先代原皇

第81話で発覚した惨劇の詳細も説明されます。ティトールの一族はかつて商売上手で富を持っていましたが、他の種族のエリンに侵略されたのです。富は全て奪われ、ティトールは家族も友人も全て殺されてしまいました。第71話によれば一族にはそれなりに生き残りがいるようですが、身内が殺された中ティトールが助かったのは、彼女が一族の中で数千年ぶりに現れた構造者であり、侵略者にとっても利用価値があったためなのかもしれません。ティトールは全財産と切り取った父の首を侵略者に差し出して忠心を示し、配下に加わったようです。第81話を読んだときはティトールが父を殺害したのかと思いましたが、今回を読む限りでは侵略者に殺害された父から首を切断したほうがありえそうです。

気になるのは家族を裏切って侵略者の側につくのにティトールがどの程度積極的だったのかという部分です。脅されるようなかたちで生き延びるために泣く泣く行ったのか、したたかに自分から強者に取り入ったのか。それは現在原皇として戦う彼女の思考にどう影響したのか、黒い目のヨウとともに逃避を続けた彼女とはどう違うのか。多くの点に関わります。また、この侵略者というのが先代かつ初代の原皇の率いるフォウル国やその前進だったのかも気になるポイントです。もしそうなら、一族や家族に害をなした彼に対するティトールの憎悪は相当なもののはずで、自滅した先代原皇としての彼に対する侮蔑やわずかにうかがえる思慕をあわせて考えると、かなり複雑な感情が渦巻いていることになります。ただし、侵略者をさらに侵略し、ティトールを開放したのが先代原皇である可能性もあります。この場合、かなりストレートにティトールは先代原皇を尊敬していそうです。

先代当主への贈り物

現在ティトールは2人の神明阿当主と戦うので精一杯ですが、さらにもう1名加わるようです。新たに目覚めた神明阿ヘクスは、第46話の当主たちの顔と照らし合わせる限りでは210代目でしょう。209代目の神明阿アススの次の代です。神明阿一族は複数の候補の中から当主を選ぶようなので、ヘクスがアススの息子や孫とは限りませんが、2人に面識はあると考えられます。現にヘクスはアススに対して何らかの思い入れがある様子を見せています。ティトールがアススを不意打ちで攻撃し殺害に大きく関与した件が、気の進まぬ複数人での攻撃に加わることをヘクスに踏ん切らせたようです。ヘクスはティトールとの戦いをアススに贈るつもりです。

現状ティトールは絶体絶命ですし、この場の全員がそうですが、どんな末路を迎えようと自業自得です。それもあって彼女が現在人界で端末に描かせている絵本の続きには遺言めいた思いが加わっていそうです。しかし美しく死ぬのも悪者の魅力ですが、彼女の性格からすれば汚く生き延びても魅力を見せられると思います。何よりここでティトールに死なれるとゼロの体が維持できないので、ティトールにはどうにか再び生き残って欲しいですね。

群青のマグメル第0話感想 ~振り返る

第0話 因 10P

今回は第0話で、10Pです。中国では先日第年秒先生の微博にて、最近執筆ペースが不安定になっている理由とそれを解決する目処が立った旨がアナウンスされていました。イレギュラーだろう話数とページ数ではありますが、アニメ放送直前の今は物語の始まりを確認するのにうってつけの時期でもあります。

重要な登場人物ながら謎の多い「彼」の内面が明かされます。

因果の出発点

第52話でヨウの脳裏に再生された他の誰かの記憶、それがその「誰か」の視点で語られます。「誰か」とは第33・34話で因又(インヨウ)と呼ばれていた黒い瞳のヨウ、いつものヨウとは別のヨウです。彼はクー・ティトール・オーフィス・トトをすでに失っていて、最後の家族であるゼロさえ眼の前で亡くすという悲劇に見舞われました。周囲の様子からすると広範囲、あるいは世界全体で空間崩壊が起きたようで、逃れられたのは因果限界で空間転移できる黒い瞳のヨウのみです。おそらく神明阿一族が聖心を手に入れたことによる文字通りの世界滅亡の結果でしょう。ノイズまみれの黒いコマ、足のクローズアップからひとりぼっちで空白へ向けて遠ざかる後ろ姿に切り替わるコマの流れ、いずれも彼の喪失感をこれ以上無く伝えてきます。そこから思い直し、新たな可能性に向かってもう一度歩き出す決意の瞬間も、生命力の感じられる美しい風景によって静かながら力強く胸を打つ場面となっています。そして彼がもうひとりの彼と出会う瞬間、つまり拾因がいつもの金の瞳のヨウと出会った瞬間が、拾因の視点からも改めて描かれます。

拾因の正体とはやはり黒い瞳のヨウでした。彼の心情はこれまでに断片的に示されていた内容からおおよそ察することはできていたとはいえ、ようやく彼の本心を彼自身の視点から知る瞬間がやってきたことには、しみじみと感慨深くなるものがあります。彼がヨウに託さざるを得なかった使命や希望の重みも改めて心に染みます。『群青のマグメル』は設定面ではまだわからない部分ばかりですが、今まで読み続けてきて良かったと確かに思える内容でした。

世界と3人の因又・拾因

ヨウが複数存在するのは他の世界が存在するためだと以前から推測できていた通り、ようやく別の世界の存在が明言されました。かつて滅んだ黒い瞳のヨウの世界と、いつもの金の瞳のヨウの世界という、少なくとも2つの世界が存在することは間違いありません。さらに世界について考えるにあたっては、今回は描写されていない第53話の遥かのマグメル深部の、ヨウと同じ身体的特徴の少年の存在も思い出す必要があります。この少年はいつものヨウではなく、全く事情を知らないと思しい様子から黒い瞳のヨウ=拾因でもありません。つまりヨウに類する存在が3個体確認できることになります。遥かのマグメル深部の少年は第58話でいつものゼロと同じ身体的特徴の少女から「ご主人」と呼ばれています。この2人は第10.5話のゼロ・「ご主人」と同じ服装であり、同一個体である可能性が高いです。

ここで問題となるのは同じ人間が3人いるなら世界も3つかそれとも2つか、いつものヨウと遥かのマグメル深部の少年が存在するのは違う世界か同じ世界なのかという点です。

世界と3本の鍵

手がかりとして注目すべきはやはり念動結晶でできた黒い鍵でしょう。トト・ビックトーの父であるオーフィスが宝探し用の宝を用意するためにつくったあの宝箱の鍵です。

①いつもの世界のオーフィスは世界に1つしかないという黒い鍵をトトに渡しました。

黒い瞳のヨウの世界のオーフィスは鍵をヨウ・ゼロに渡し、それは身につけていたゼロが亡くなる瞬間にヨウの元へ紐の一部を付けたままちぎれ飛びました。

②そして拾因は世界を超え、その遺体のそばから紐のついた鍵をティトールが拾い、ヨウに渡しました。

③同じく紐のついた鍵は、遥かのマグメル深部の少年も持っています。この少年と同一個体の可能性が高い第10.5話の「ご主人」は、今は行方不明の古い友人からこの鍵をもらったといいます。

また、紐のついた2つの鍵のどちらかは完全構造力による複製だと、第65話でヨウは推察しています。この回では鍵と世界についてのより核心的な言及もあります。

「こうしていると確かに他の結晶の存在を感じる トトが持っている鍵を含めて三つ…」
「二つ目は宝箱 残る一つは3本目の鍵…」

このヨウのセリフを最初に読んだときは、遥かのマグメル深部はいつもと同じ世界に位置する可能性が高いと思っていました。もしあの少年が別の世界にいるのに、いつものヨウが鍵の存在を感知できるのなら、他の世界の宝箱も同じように感知できるだろうと考えたからです。しかし黒い瞳のヨウの世界は空間ごと破壊されたようで、当然宝箱も完全に破壊されたはずです。さらに遥かのマグメル深部の少年の世界にはビックトー親子が存在しないなどの理由で宝箱がつくられなかった可能性もあります。ならばいつもの世界と遥かのマグメル深部が別の世界でもおかしくはありません。第10.5話の「ご主人」とゼロも拾人館を営んでいる点を考慮に入れるなら、別の世界であるほうが自然でしょう。この場合、今回の8P(アプリの表示では9P)の「の世界が残ってる」とは、「」と「の世界」でなく、「」の「世界」、つまり(=いつものヨウ)の世界と(=遥かのマグメル深部の少年)の世界が残っているという意味になります。

ただ一人の因又

どちらが正しいにせよ、「ただ一人運命を許された君に」というのですから、運命を変えられるのがいつものヨウだけなのは間違いありません。いつものヨウと遥かのマグメル深部の少年には何か運命改変に関わる違いがあるのでしょう。その理由の可能性としては、構造能力の違いがひとまず思いつきました。黒い瞳のヨウ=拾因は、現実構造と、神の見えざる手と因果限界という2つの幻想構造、合計3つの能力を使用できます。そうした摂理を超えた構造が可能なのは、自分の構造の理解を通じて別の自分の構造を理解したためだという仮説が立てられます。仮説に仮説を重ねることになりますが、いつものヨウがベースとしては現実構造者であることが、例えば完全構造力の操作などで何か決め手となるのかもしれません。ただし確信の持てる答えはまだ思いつかないので、今は素直にこの先の展開を心待ちにしたいところです。

TVアニメ『群青のマグメル』の公式最新情報ページ

TVアニメ『群青のマグメル』公式サイトが本格稼働し、公式情報ページも開設されています。それに伴い重複する情報をこのサイトにて取り上げることは終了いたします。

gunjyo-magumeru.com

群青のマグメル第81話感想 ~正史には残らぬ

第81話 物語達 16P

扉絵はバトンリレーをする第年秒先生の漫画の主人公たちです。1人目は日本語未翻訳の『長安督武司』の雲心暁、2人目は『5秒童話』の童、3人目は『拾又之国(群青のマグメル)』の因又(インヨウ)です。4人目にはちょっと見覚えがありません。もしかしたら構想中の新作の主人公なのでしょうか。

ティトールがメインとなる回です。彼女の視点で、戦いの場である2つの舞台の現状について整理されるとともに、もうひとつの舞台での新たなドラマの始まりが描かれます。本編の最初のページで3つの舞台すべてが示されています。

戦場を物語る

まずティトールのモノローグによって現状の詳細が解説されるのは、第80話の続きであるヨウ・クー(・ゼロを端末としたティトール)対黒獄小隊の戦いが始まる寸前の泡沫の遊びの内部の様子です。ここでティトールはさしあたりこの戦いの傍観者となることを選びます。ゼロの体の構造力は封じられており、体調も悪く、黒獄小隊と戦っても力を浪費するだけと考えたためで、賢明な判断と言えるでしょう。

また、本体は第78話から続く神明阿当主との2体1の戦いの当事者となっている真っ最中であり、無駄に構造力を使う余裕がない状況でもあります。とはいえ消耗した状態から人類最強の当主2人を相手に互角のラウンド2を繰り広げられるのですから、改めてティトールの最強生物としての格を思い知るばかりです。自分が把握していない情報の存在を意識している点も含め、お互いの手札を読んだ上でティトールは最善の判断を下そうと努めています。しかし、そうした策略を超えて、ひたすらに闘うことに喜びを見出す獰猛な戦士としての顔を見せる彼女もまた、実に魅力的でした。美しさと凄みのある一瞬の切り取られた表情が素晴らしいです。

作者と読者のロマン

3ヶ所目の舞台は前の2つとは違い現状は平穏そのものの人間界です。第78話のラストでティトールの端末である人間の女性に声をかけようとした若者は、実は彼女を通じてティトールが描いた絵本のファンだったのです。2人は他所での激闘が嘘のように静かな会話を交わすことになります。おそらく気晴らしにわずかな絵本を出しただけの作者と、技術はさておきその世界観に惚れ込んで憧れた読者が、偶然に街中で出会うというシチュエーションはなかなかに運命的です。男女とは言っても直接的な色の匂いは薄いのですが、だからこそのロマンを感じます。

ティトールは元から口が悪く、若者は悪気こそなくとも舞い上がっており、2人とも相当に言葉にすべきでないことを言葉にしているものの、その粗雑さが落ち着いたムードと不思議と調和しあって独特の雰囲気が醸し出されています。ノワールものや任侠的もとい武侠的な、無頼を背景とした物憂い甘やかさを含んだ空気感です。定番的ですが、ラーメンカフェの出際にティトールが言った「次があったら」などはやはり格好良いセリフです。

裏社会という意味でいえば、ティトールはまさに人間の歴史から隠蔽された裏の世界における、敗戦した自国にて力で成り上がり頂点に至った武装集団の頭目と言えます。会話の相手が真実を何も知らない無力な堅気の人間である点も、不釣り合いで儚い交流であることを印象付けるお約束のスパイスです。

おとぎ話の真実

しかし最後のページにて、偽りの立場という後ろ暗さに引き立てられたロマンチックなムードは、妖精少女の絵本というメルヘンの内に歪められた凄惨な現実の示唆へと突如反転します。

第68話以来引っかかっていたあの幼いティトールと生首の男性の関係がついに明かされました。生首が彼女の父親のものなのは予想できる範囲でしたが、殺害したのが彼女だというのには本当に驚きました。当時の彼女の家族になにが起きたのかに興味を掻き立てられずにはいられません。父殺しを経た彼女が先代原皇の自滅していった時に部下として彼を救えず、やがて2代目原皇の座を手にするに至ったという、その経緯の詳細と心情も知りたくなりました。

また、絵本にすることで自分から切り出そうとした彼女の恐ろしい過去が、マグメル、とりわけフォウル国でどう扱われているのかも気になります。おそらくは輝かしい指導者の汚れた過去として側近により隠蔽されている、あるいは彼女自身が傷として隠そうとしているものなのではないでしょうか。だとするならわざわざ人界で隠れて絵本として表したことがうなずけるような気がします。隠したいが隠し続けるのは辛いというジレンマから、抱えきれない感情を創作物として昇華する行為はさほど珍しくないからです。ただ、ティトールの過去があの世界で明かされているにしろ隠されているにしろ、『群青のマグメル』の読者としての視点を与えられた私たちは、近いうちにその痛ましい真相へ直面せざるを得なくなるのでしょう。