群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル 第9話振り返り感想 ~人類が未知に挑み続けることは愚かな行為か

第9話 エリン 20P

原題:探险者的空想(直訳:探検者の空想)

今回はヨウが出てこず、前回の後半から続いて探検家9人とエミリアのそれぞれの現状を描くものとなっています。

ここで探検家9人の中で特に焦点を当てられたのが広という少年探検家です。彼は過去の探検の失敗で自らの実力不足を思い知りマグメルに挑むことを自戒しましたが、ダーナの繭というマグメル以上の未知が現れたことで、マグメル以上の危険が待ち受けていることを知りつつも極星社からの依頼を受けてしまいます。3P目の中段のコマはダーナの繭の噂で持ちきりになりながらもあくまで他人事として日常の生活を送る町の人々と、街にいながらもどこか往来から浮き立つように過ごしている広少年の姿が描写されています。自戒しつつも結局は他人と同じような安寧の中には生きられない探検家としての性を持つことが表れている場面なのでしょう。

しかし広少年自身が実力不足の自分がダーナの繭に挑んだ理由を明確には理解できず、自分を愚かだと思う気持ちを募らせていきます。そしてその予感通りにこの後の話で彼は死んでしまうのですが、彼だけでなく彼が自分とは違うと判断した4人の腕利きの探検家も同じ運命を辿ってしまいました。人類が未知に挑む時には絶対の安全などなく、つまり未知に挑む行為というのは賢い選択とは程遠いところに存在するものなのだと提示されます。

広少年のエピソードは前回のヨウがダーナの繭に突入する際に自分は賢くはなれないと拾因に悔いていた理由を別の視点から補強する形となっています。ヨウは拾因から人の世界に帰るように言われたこともあり、拾人者として依頼人を仲介する形とはいえマグメルから離れられず今まさにそれ以上の未知に挑もうとしている自分を彼の願いに背いていると考えているようです。しかし一方で拾因はヨウに世界を救うようにも願っていたことを鑑みるに、ただ挑まないことを望んだわけではなさそうです。完全に推測となりますが、未知に挑みかつどんな手段を使ってでも生き延びることができるというのが拾因のいう賢い人なのではないかと感じます。いずれにせよ賢くなれというのはヨウの生命を慮った言葉である可能性が高そうです。ではそんな拾因自身はマグメルの最奥で何を手に入れようとして死んだのでしょうか?あるいは死んだことで何かを手に入れたのでしょうか?

前回今回と広少年以外の探検家の見せ場もあり、この時点では誰もが活躍できそうな描写があることで逆に誰が死んでしまってもおかしくないという緊張感が生み出されています。しいて言うなら噛ませ犬的な雰囲気のあるボルゲーネフが一番危険そうに見えましたが、彼はそのギャグキャラ的な性質をもってダーナの繭編を生き延びただけでなく、最後まで生き抜けそうな予感さえ漂わせています。ちなみに中文版ではこの時にボルゲーネフが後に詳しく説明される危険生物ランクの分類に基づいた発言をしていて、この設定は早い時点で存在していたことがわかります。

活躍の目立つキミアイオンは他のメンバーに対して冷静に判断を下しながら、ボルゲーネフに対してエポナの涙を摂取しただけにしては強いという評価をします。これは彼の構造者としての才能が多少なりとも身体強化に働いたためでしょう。蛍火に対して自分と同じと感じたことは日本語版だと抽象的な分意味深ですが、中文版を読むとマグメルでエポナの涙より効果の高い強身薬を摂取したことが同じだと具体的に示されています。おそらく彼女たちは中文版でのみ度々言及される強身薬である狂王蛇の血清を摂取したのでしょう。ただ、2人がマグメル深部での活動に成功できたのは構造者としての資質が表れたためだということは示唆されていそうです。

そして9人の探検家は探索を進める中でエリンというこれ以上ない未知と危険に出会ってしまいます。

この時エミリアもエリンと出会ってしまいます。それは人間の女性の服を着た1人のプーカ類で、人間を食べて回っていたらしいところをもう1人の何者かに一蹴されてしまいます(エリンの単位が「人」でいいのかは微妙なところですがとりあえずこう表記します)。プーカ類は後に出てくる個体も多くが人間のものと同じ衣服を着ていますが、どうやら捕食の効率を上げるために食べた人間の服を奪って着て人間の気を惹く単語を喚いているようです。プーカ類は基本的に人間と異なる言語を使っている表現がなされていますし、この場面のプーカ類も2単語しか人間の言葉を話せていない上に中文版では人間の言葉を真似しようとしていることをクーから馬鹿にされています。普段は人間の文化とは接点が薄いと描写されていることから、人間と同じ服装は人界に来てから手に入れたものと考えるべきでしょう。クーはこの時点では正体不明ですが、結果的に敵のエリンを退けてエミリアを助けたことで味方の登場として読者が期待を持てる引きとなっています。