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群青のマグメル~情報収集と感想

ウェブコミック配信サイト『少年ジャンプ+』で連載中の『群青のマグメル』を非公式に応援するブログです。

群青のマグメル 第34話感想 ~彼は世界の敵となる

第34話 過去と今 20P

原題:続・决定过去的未来(直訳:続・過ぎ去りし未来での決定)

2016/06/26 日本語訳の問題点について追記

今回のヨウと呼ばれる人物は現実構造の能力だけでなく、因果限界と神の見えざる手という2つの幻想構造の能力も持っています。前回のゼロが気付いた冒険しつつ拾人館の依頼もヨウが受けられた理由というのは、ヨウが因果限界で瞬間移動していたということですね。ゼロは自分の知らない間に依頼の内容を聞くためヨウがトトと会っていたことが気に食わずトトに嫌味を言ったようです。このゼロが第32話以前のゼロと違い通信系の能力を持っていないために、ヨウとビックトー親子が直接会って連絡する必要があったのかもしれません。

瞳が黒く因果限界の能力を持つ人物というこれ以上ないヒントが出されましたので断言してしまいますが、私は第33・34話でヨウと呼ばれている人物は私たち読者が拾因という名で知っている人物だと考えます。その理由とこの舞台についての詳細は別のページで書かせてもらおうと思いますが、とりあえずこのページで感想を書かせてもらうにあたっては、キャラクターの名前の表記はその時点で彼らが呼ばれているものに合わせておきます。

今回の話の骨子は人類とエリンの間に全面戦争が起こり、それによってヨウとクー(名前は呼ばれていませんがクーに相当するキャラクターであることはほぼ確定なので)の個人的な関係が引き裂かれてしまうことです。クーは聖国真類としての己に自負を持つキャラクターであり、真類が参戦を決めたのなら運命を共にするしかなかったでしょう。エリンの戦士の中にクーを見つけてしまったヨウの衝撃は、見開きで右上から左中央に向かってクローズアップされるヨウの瞳が見つめる先と、右下から左中央に向かってエリンの1人がクローズアップされる流れが、クーの1ページの縦をぶち抜いた見開き最後のコマで合流するという二重のクローズアップ効果をもって表現されています。

ヨウはクーとの関係を知らない仲間の前では平静を装い彼らの避難を優先しますが、最後に自分が空間を超える順番となった時にクーの方を振り向いてしまいます。クーと視線が向かい合い、この大コマの迫力から2人の間に戦闘なりの激しい感情のやり取りが生まれることへの読者の期待が否が応でも高まります。しかし見開きをめくるとあまりの距離に2人は互いの表情を確かめ合うことは出来ず、目線を交えることすら出来ないという現実が描かれます。この距離はその時の2人が置かれている立場の隔たりをそのまま示すものです。ヨウはあまりにも遠くなってしまった幼馴染から名残惜しげに視線を外しその場を去るしかありませんでした。

そしてヨウは人間側の立場さえからも離れ、全面戦争へ完全に背を向けて拾人館の面々と船に乗り逃避行を始めてしまいます。ゼロの言ったとおりに行くあてなどない旅です。それでもヨウは旅を続ければ幼馴染と敵対する以外の答えにたどり着けるということを期待したのかも知れません。それとも幼馴染と既に立場を異にしているという答えから逃げ続けようとしたのでしょうか。第33話の冒頭と似たナレーションが今回の締めにあり、この舞台についての言及がひとまず終わったことが読者に告げられます。しかし私たち読者は彼が何らかの答えに追いつかれてしまっただろうことを言われずとも知っています。彼は拾因であるかもしれないからです。「ヨウ」が拾因と出会った時、拾因の髪は色を失っていました。そして拾因は「世界の敵」でした。

日本語訳の問題では前回オーフィス・ビックトーが「手掛かりもワシが掴んだ」と言ったことになってしまった件へのフォローがないままティトールが中文版通りに「ビックトーの宝」について言及してしまったため会話が若干ちぐはぐになっています。ヨウがビックトー親子の方を見ながらビックトーの宝である小切手をちらつかせて金の話をしていたのも酔狂でこれだけ出せるなら本気だともっと出せるだろうと暗に催促していたからで、その了承の返事としてビックトー親子は得意げな表情をしていたのですが、この点も日本語版ではわかりませんね。

それと日本語版は翻訳の難しいシリアスな会話を省略して代わりに元々あるギャグを水増しする傾向にあるのですが、今回は少々ギャグが多くなりすぎて話のバランスが崩れてしまったように感じます。ティトールのおどけつつも油断のできない雰囲気が消えてしまい、話の骨子であったはずのクーとの離別もむしろ増えすぎたギャグから浮いてしまっています。残ったシリアスな会話もセリフ回しが上手く行っているとは思えません。ティトールの年齢に関する「一两百年」という語も私の調べた限りでは「一、二百年」つまり「百年か二百年」と理解するのが適当だと思うのですが、その点を把握した上で「千二百年」*1というアレンジにしたのならどんな意図があるのでしょうか。

 

追記

今回の日本語訳で一番問題なのは、『群青のマグメル』、というより『拾又之国』のテーマ性が把握できるような訳がなされていないことです。

前回のゼロが14Pから15Pの間に話していた内容は本来日本語版のように軽いものではなく、何があろうともマグメルの富を諦めること出来ない人類の欲望への呆れと諦観、そしてその欲望を負の側面として持つ探検家の救助を生業とし続けている己への自嘲が読み取れるものでした。ここで人類の欲望というテーマが強調されることにより、マグメルへの侵攻に耐えかねた原住者のエリンたちが人類に対して全面戦争を仕掛けるという今回の内容が迫真性を増すことになっていました。

しかし翻訳者は、ビックトーの宝というものをよく理解していないこともあって、その一連のゼロの台詞を単に金儲けに関するものでしかなく今回の逃避行の資金源の会話に繋がるものだと勘違いして訳してしまったようです。当然中文版では人界と全面戦争を起こしたばかりのマグメルで何の問題もなく拾人者としての金稼ぎができると思っているようなヨウの台詞は存在しません。ヨウはこんな状況でも拾人者の仕事を続けようとするかもしれませんが、ここまでに脳天気に宣言できる場面ではないはずです。翻訳者はわかりやすくする意図で台詞を足したのでしょうが、その内容が誤っています。先に述べたとおり、この台詞は本当の逃避行資金源であるオーフィス・ビックトーに暗に資金の催促をするための内容でした。

前回から今回にかけては明らかに発言者を取り違えたと思われる台詞の翻訳が散見され、不错(素晴らしい・間違いない)をイマイチと訳すなどの単語レベルでの違いも多く、翻訳者に信頼のある状況ならアレンジとして納得できたこれらの要素も現状だとひどく目についてしまいます。

*1:千二百年を中国語で表すなら一千两(百)年が普通です。調べたところ一部の翻訳エンジン(Google翻訳など)が一两を一、二でなく十二と誤訳してしまい、それにともなって一两百年も千二百年と誤訳してしまうようです。