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群青のマグメル~情報収集と感想

ウェブコミック配信サイト『少年ジャンプ+』で連載中の『群青のマグメル』を非公式に応援するブログです。

群青のマグメル 第19話振り返り感想 ~ヨウと「家族」

第19話 邂逅 20P

原題:空想的问候(直訳:空想的な訪問)

双生タイタンをダーナの繭の外に出すことに成功して激闘が終わります。双生タイタンを退けることは出来てもとどめを刺すことは出来ませんでしたが、ヨウたちの目的はあくまでも繭での救助活動であってエリンたちを殺すことではありません。双生タイタンと戦うことになった連合国軍には災難でしょうが、彼らもプロということでヨウたちはその点を気にしたりはしないようです。

その場に残っていた3頭身のエリンのお頭もごく簡潔な描写で倒します。双生タイタンとのバトルをしっかりと盛り上がるように描写できたことで、このバトルの省略がいい意味での驚きと格好良さを生んでいます。あえてバトルが省かれたのが敵対するエリンの中で最も丁寧にキャラ描写をされたお頭だったこともこの場面のクールさを効果的に引き立てています。ダーナの繭編全体の構成を考えても今回をバトルにワンクッション置くための回にすることで、対雑兵エリンから対双生タイタン、対聖国真類とバトル相手がスケールアップする上での邪魔にならないようにし、かつバトルが連続しすぎてテンションがダレないようにするためのアクセントにもなっています。

バトル終了後は舞台を変える前の後始末の会話に移ります。そして4人の探検家との共同戦線の終了もごく淡白に決定します。ヨウだけ危険が大きい立場とはいえ一応は共に死線をくぐり抜けた仲ですが、あのボルゲーネフでさえも無駄に感情的になったりはせずに、5人全員が自分の損得を計算してプロとして割りきった判断をします。

しかしここで一徒がヨウに彼の価値観について問いかけます。ここで問われている「人の命」について答えることとは、人命救助の仕事である拾人者をヨウが続けている動機について答えることです。ヨウの実力で損得だけを考えるなら探検家にでもなってマグメルの富を直接奪取するのが最も手っ取り早いはずです。それでも拾人者をしている動機についてヨウは上手く喋れていないことを自覚しつつもどうにか言葉を探っていきます。

ヨウはプロの冒険家が冒険の中で命を落とすこと自体には、夢に死ねるのなら幸せだろうとこれまでの態度通りのドライな答えを返します。ですが動機の核となる部分に言及するときには「家族」という言葉を使い、ヨウにしては珍しく「家族」というものには単純に割り切れない想いを抱えていることを露わにします。これまでもヨウは普通の家庭環境で育っていないことがほのめかされていて、魍魎の果編などの家族に関わる話で心情の一端を覗かせることもありました。しかし自分の心情についてヨウが語るのはこの場面が初めてであり、今回はここまでとことんドライさを強調した演出がなされていた落差もあって、派手な盛り上げをされていないにもかかわらずヨウの「家族」に対する思い入れが非常に印象に残る場面となっています。思い入れとは執着であり強さだけでなく弱みにもなりうるものです。それまで格好良さはあっても隙が感じられない分読者からは少し遠い存在だったヨウですが、この場面から随分と人間味が増して感情移入しやすくなりました。新たな面を見せることは一般には読者から見たそれまでのキャラクター性を壊してしまう危険性もありますが、ヨウの場合は正体不明の状態からの段階的な情報の明かし方が上手いのと、ドライな面も人間味を感じやすい面もどちらも紛れもない本心だという描き方をされていることで人物像の深まりを素直に感じられます。プロの冒険家は割り切れるけども一般人の家族は違うという理屈自体も読者にとって納得のしやすいものです。私が『群青のマグメル』に本格的に嵌ったのもこの一連の会話がきっかけでした。

ヨウはヨウの言葉にいまいち共感できないらしい一徒たちと別れて再びエミリアの救助活動に戻り、道中のつかの間の睡眠の中で彼の「家族」である拾因のことを思い浮かべます。初読時はわかりませんが、先ほどの会話での冒険家の無事を祈って待つ家族とは、マグメルで行方不明になったままの拾因との再開を夢見るヨウそのものでもあります。実の家族との繋がりをもたないヨウにとって拾因とは家族以外の何物でもなく、その死が判明した時の動揺を知ってからこの話を見返すとより味わい深さが増します。また、今回「家族」と訳された言葉の元の語は「家人」であり、第8話で拾因自身が「守れなかった家族」に見せていた執着の強さとの繋がりも示唆されてます。「家族」という言葉は『群青のマグメル』全体で重要なキーワードとしてことあるごとに浮かび上がってきます。

回想の中で子供のヨウと拾因はエリンの構造者について話しています。ここで今回のラストで対峙するクーとの敵対の因縁があるように見せかけつつも、実際は拾因からスルーされるような「子供の喧嘩」でしかないこともほのめかされています。また第8話では1つしか出せていない箱型の構造物が2つに増えていることでヨウの上達も描写されています。そして今読むと気になるのがこの時の拾因の内心ですね。拾因がヨウにエリンと接触しないように言いつつも、喧嘩の継続を許したのは相手がクーだと察してのことでしょう。黒い瞳のヨウが拾因と同一人物で、「家族」の1人であったあちらのクーが既に死んでしまったとするなら、拾因はどんな気持ちでもう1人の自分ともう1人のクーが友情を育んでいく様子を眺めていたのでしょうか。