群青のマグメル ~情報収集と感想

『群青のマグメル』と第年秒先生を非公式に応援

ファミリーゲーム第5話感想 ~愛と勇気の異能力バトルそしてコメディ

ROUND5 25P

今回は初めから中盤まで三月が異能を活かして奮戦する様子が手早く丁寧に描写されています。前回終了時点では、残り1話であることと三月の目的が家族の争いを「止める」ことであったため、正直に言ってもうバトルがなくてもしかたがないと考えていたのでこれは嬉しい誤算です。人形を奪えば異能も奪えるという点は意外でしたが、異能の源が人形であるのは説明されていましたし、前回の三月が捨てた人形を再び掴んだ時に異能とコスチュームが戻ってきたこともこの展開の前振りになっています。また異能とコスチュームがセットになっている設定も異能を「身に着けた」ことを視覚的に納得させてくれます。これには頻繁な異能の切り替えをわかりやすくしてくれる効果もあります。

第3話の「力があっても 弱い僕じゃ意味が無い…」という独白を受けて、時間停止能力だけでなく新たな異能も上手く活用して勝ち抜いていくことで三月が頭脳的な部分も含めての強さを手に入れたことが示されます。倒された家族たちが皆まんざらでもなさそうな反応をしていることが、実は彼女たちも三月のことを心から思っていたのがうかがえていいですね。家族最後の女性である母親の人形を奪い、言葉と笑顔で三月が強い男になったことがはっきりと認められたところで異能力バトルものとしての決着がつきます。遥に向き合う三月が白いタキシードになっているのも、まだ七五三のような雰囲気を残しつつも一人前の男である結婚式の新郎を連想させるものになっていて面白いです。ただ、中国では新郎の衣装は白いタキシードが一般的というわけではないのでたぶん意図した効果ではないのだとは思いますが。遥とのバトルでは3分間のインターバルを入れるタイミングがわかりやすい3姉妹のバトルと違って時間停止を連続使用しているように見える場面がありますが、1回目がほんの一瞬しか止めていないことと2回目の停止での1秒目のカウントがすぐに来ているように見えることを考えると、合計で3秒止めるまではインターバルを入れなくても大丈夫なのでしょう。

バトルパートで興味深いのが、三月が強くなったことに一番複雑な感情を覗かせているのが明るいボケキャラに見える二海であることです。普段が表情豊かな二海だけに、あえて表情を隠す演出が切れ味よく働いています。二海は本当は三月をずっと守っていたかったんでしょうね。そんな二海の異能が三月の新たに得た異能の中では一番活用されているというのは皮肉なものです。力を奪われた二海が部屋着にスリッパという無防備な格好となり、スリッパさえもが脱げてしまったところを先程までの自分の力を身に着けた三月に救われるというのは二人の関係の変化を象徴的に表しています。

穏当にバトルパートが終わったことで、スムーズにコメディパートへ移行し『ファミリーゲーム』は当初の雰囲気を取り戻します。コメディパートの立役者にして最大の敵は同じ男の御堂でした。扉絵に引き続きドラゴンボールリスペクトのポーズでの瞬間移動をして漁夫の利をかっさらい、神に「ギャルのパンティおくれ―――っ!!!!!」よりヒドイ願いを叶えさせます。薄々気付いてはいましたがコスチュームもドラゴンボールリスペクトですね。

せっかく頑張った三月には可哀想ではありますが、なんだかんだ気にはなっていたので家族全員の性転換姿が見れたのは読者としてはおいしくはあります。それにしても三月は可愛く女性化していますし、女性陣も遥を筆頭にイケメン化しているのですが、はっきり言って御堂の女性化はキモいです。下手にセクシーさはあるのが余計にキモい。御堂の発言を鑑みるに、身も心も女性になりたいというよりは、男の心を持っているからこそ女性の体を手に入れてみたいタイプのようで、つまりは変態です。

結局三月たちの活躍や作者キャラの計画も虚しく漫画内漫画としては打ち切られてしまうというオチがつくのですが、それでも第1話で言われていたように三月たちの人生は続きます。そして続きがあるのは漫画内現実で生きる作者キャラ、また三月のモデルの彼にとっても同じことです。

モデルの彼は、主人公が両親に対峙し「もう逃げない」ことを決意したところで終わった漫画に励まされ、両親と向き合うというあったはずの漫画の続きを彼自身が「現実」のものにすべく家に帰ってきます。

作者キャラの老人はそれに気が付いて、希望を届けた三月たちを労うため元の性別に戻し、自分自身も再び希望を奮い立たせます。

遥・御堂夫妻はこの件で一悶着あったようですが、それでも凸凹の噛み合った仲良し夫婦であることに変わりないようです。御堂の野望は露と消え、誰の願いもかなわないというバトルロイヤルもののお約束の結末が訪れますがこの場合はそれがハッピーエンドです。

第5話の表紙で異能バトルに巻き込まれたのであろう飛行機を助けていた二海は、今は悠々と青空を翔けていく飛行機を眺めています。かつて自分の庇護を必要としていたものが、そして三月が自分の手元から飛び立っていくことを考えているのでしょうか。

三月に執着し他人を下僕にすることを厭わなかった四乃は二人の友達と登下校しているようです。もしかしたら二人は新しい友達かも知れません。

乱暴者で三月にとっては悪魔そのものだった一はフェンス越しにグラウンドを見守っています。そのグラウンドの中には三月がいます。

三月は、第1話ではただ他人事としてサッカーを観戦することしかできなかった三月は、試合に加わり仲間たちとプレーを楽しんでいます。体も幾分かは逞しくなったようです。そして希望を失わないことこそが強さであると覚えている限り、これからも強くなっていくのでしょう。

 

  • 19P下段のコマの目は右から御堂、三月、遥、二海、一、四乃です。
  • 日本で公開することを前提としてつくられたので当然といえば当然なのですが、『ファミリーゲーム』の日本語台詞はかなり良く出来ていると思います。少なくとも読んでいて首を傾げるような部分はありませんでした。もし中文版が発表された時に異なる部分があったとしても、日本語版の中で矛盾がないので問題無いでしょう。
  • 『ファミリーゲーム』は技巧に優れた第年秒先生の実力が遺憾なく発揮された作品で、読み返す度に理解の深まっていく面白さがあります。キャラクターやテーマに対してのめり込み過ぎ無い適度な距離感を保った視点も魅力的です。日本でメジャーな少年漫画家になるにはもっと味付けのわかりやすい作風の方が良いのかもしれませんが、できればこの持ち味を殺さずに頑張っていって欲しいです。