群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第56話感想 ~巨星墜つ

第56話 大当たり 40P

今回はページ数がいつもの2倍の40Pあり、長い尺がダレることなく活かしきられ満足度の高い内容になっています。いつも通りドラマ的に見ごたえがあるだけでなくバトル描写もいつも以上にたっぷりとしたボリュームを持っていて、痛みを伴う力強さに溢れた肉弾戦と構造能力にとどまらない各人の能力を活用し尽くした頭脳戦の両方が楽しめます。巨変による攻撃と解除による回避の使い分けは駆け引きがいずれの場面でもよく練られて唸らされるばかりです。視覚的な変化にも富んでいて新しいページをめくる度にワクワクできます。12-13Pと14-15Pで見開きの2連発で披露された、遍く左手をヨウ自身が装備してのパンチには、贅沢に使われたページ数に見合うだけの力強さと勢いがあります。アススの水壁の棘による足止めをヨウが足場として使い距離を取り直す流れでも、駆け引きが面白いだけでなくアススの全身と対比されて確認させられるヨウの足の巨大さに息を呑みました。こうした派手な場面だけでなく、20Pでの三分裂した水弾をヨウがはたき落とすという動きの小さなコマも、表情の気迫と最低限の動きの的確さが際立たされることで印象深く仕上げられています。スケールの巨きな異常事態の渦中ではあっても、技巧的なヨウらしい格好良さが随所に見られ、キャラ性を活かした戦闘の組み立ての冴えに改めて惚れ惚れするばかりです。

能力の覚醒を経た主人公であるヨウ、その主人公にさえ勝るとも劣らない実力を発揮し続けるアスス、いつ終わるとも知れない2人の戦いは、トトを端末とした原皇という思わぬ第三者の介入により決着を迎えることになります。前回の最終ページでまるでルシスが搭乗しているように演出された飛行機が登場していましたが、今回でルシスは島の地下施設に留まっていることが明かされ、飛行機に搭乗しているのも原皇に憑依されたトトであると判明します。竜息穿甲弾を投下した飛行機の搭乗員が原皇に憑依されたトトであることは、まず口元や目元のアップからやがてズームアウトして全身が現れる原皇のお決まりの演出が踏襲されていることで、割合すぐに察しが付きます。それでもアススとの迫力ある攻防を挟んでじっくり焦らされた後に、アススの驚愕とシンクロするかたちで正体が明かされるとなかなかにインパクトのある場面となります。思惑はさておいてもヨウを援護する原皇の表情から感じずにはいられない悪辣さ、トトへの攻撃を解除したアススの姿への意外性にまさる納得感、いずれも善悪が一筋縄ではいかない現状を読者に突きつけます。

その上で光るのが突然の第三者の介入さえためらいなく利用してアスス殺害という目的を達成するヨウのクレバーさです。ゼロの死により新たな力に覚醒したこの局面でさえ、倒しきれない強者への対抗のために他者の力を利用するのをいとわないという割り切りには、結果主義者で力を目的でなく手段として必要としたヨウの原点に立ち返った思いさえします。ただ、家族と共に生きるという第一の目的を失った現状では、その常人離れぶりに格好良さだけでなく寂しさも感じざるを得ません。こうした複雑な表現が成立しているのは間違いなく描写の丁寧さの賜物ではあるのですが。

一方でアススの側も死亡こそ確定したと見て間違いないでしょうが、第三者の介入と妻の面影のある人物への動揺という横槍により個人としての力量の巨きさは互角以上の印象のままで決着を迎えたことになります。これは敵としては最大限に丁寧に扱われたかたちでの退場だと言えるでしょう。妻の面影を通してのトトとアススの接触、トトがスモールビックトーと名付け海に落としてしまった念動結晶、ゼロを血塊で撃ち殺したアススが念動結晶で撃ち殺された因果、アススをめぐる現状のすべてに結論がもたらされた幕引きです。その上でアススの過去の後悔が改めてほのめかされることになります。息絶えようとするリリがアススに訪ねた後悔とは出会い結婚したことに対してなのか、手にかけたことに対してなのか。それにアススは何を答えたのか、あるいは何も答えなかったのか。アススという人物の核心に興味が惹かれてなりません。

この先の展開の見通しとしては、トトに憑依した原皇が飛行機に搭乗していることで、協力関係さえ結べればヨウの逃亡成功に希望が見込めるようになったことは嬉しい限りです。それにしても擬神構造の正体追求を一旦保留してヨウに加勢するとは、48話で紫焔凶真を退路からどかせたことで示唆された通りに原皇はヨウに対して並々ならぬ関心があるようです。もちろんそれはヨウが拾因の後継者であるためなのでしょうし、拾因がおそらく世界の摂理を超えた一人目であるためなのでしょう。しかし原皇が拾因に対して、例えば黒い瞳のヨウとティトールのような個人的な因縁を持っていた可能性もあります。いずれにしても、正直ヨウにはそろそろ何処かで一旦落ち着いてもらい、現状の整理をして欲しいところです。他方で、ルシスの神に問いたいことの内容も気になってきます。対アスス戦終結後の新たな牽引力として、ルシスとアミルの行動と目的は極めて重要なものです。ルシス、そして彼と多くの時間を共にし価値観こそ合わないものの互いの理解者であるらしいアミル。彼らの正体と真の関係がそれらに関わってくるのは間違いないでしょう。彼らの関係が神明阿一族の現あるいは次期当主である若様と黒獄小隊隊長である点についてはほぼ断言できます。しかし神明阿一族として初めに登場したのは神明阿アミルではあるものの、顔立ちと髪の色、中文版での名前、性格、そして何より若様の左の手のひらに存在するはずの一族のシンボルである目の図柄、そうした全てが彼らの本当の立場について、ある可能性を示しているように思えてならないのです。その場合の黒獄小隊隊長の本当の出自についても気になってきます。