群青のマグメル~情報収集と感想

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群青のマグメル第59話感想 ~成果実りゆく

第59話 再生 24P

対アスス戦をはじめとした神明阿の施設への潜入エピソードが終了し、そのさなかに死亡したゼロの蘇生を目指す新エピソードが始まろうとしています。今回はそのインターバルとなる話であり、これまでに起きた出来事の結果が整理されるとともに、これから果たすべき行動を決定するための情報が開示されてもいます。

まず確認しておきたいのがヨウたちの敵である神明阿一族の動向です。前回構造した若返りのための果実は、ルシスが利用するためのものではなく先祖の当主たちを若返らせるためのものだったのですね。若返りというのは、年齢の後退を意味するものではなく、身体の発揮できる機能の活性化を示すものと考えるべきでした。服用すれば全盛期の力を取り戻す引き換えに寿命が一年縮んでしまうという点からも、少なくとも現在のルシスたちが必要とするものではないでしょう。つまりこの果実を構造したのは第一に当主たちのためだということになります。もちろん当主たちの力を、未だに具体性の見えない部分のある計画を果たすためにルシスが有効利用しようとしているのは間違いなく、その点からは擬神との対話というリスクに踏み込んだのも利己的な側面のある行動だと言えるでしょう。しかし私としては、擬神の構造に成功した後は自分に勝る権力を持つ当主たちの動きをすぐに封じるような完全に自己中心的な人物像をルシスに想定していただけに、彼が一定以上に当主たちを慮った行動を取ったことには驚きました。上祖アススの死を感じ取って涙を流したことからもうかがえる通り、ルシスにも他の生物とは違い当主たちとは心が繋がる余地があるようです。ルシスが神明阿の若様だとするのなら、これは同じ血と強さを持つことになるアススの「血の繋がる者としか繋がることが出来ない」という性質と共通しているのかも知れません。

一方で、もしそうだとすると俄然興味深くなるのがこの場面で涙を流すルシスと物憂げな顔をするアミルの温度差です。普通に考えれば、アミルもルシスほどあからさまではないにしろアススの死を悲しんでいるという表情なのでしょう。しかしアミルには実は神明阿の直系の血族でない可能性があり、上祖様であるという理由だけではあまり交流のないアススの死に対して大きな感傷を抱けないのかも知れません。それだけでなく、直系の血族である可能性の高いルシスとは常に行動を共にしつつも複雑な感情を覗かせていることを考えると、上祖様「には」死に対して涙できる様子を見せることで血族とそれ以外への心の断絶を改めてあらわにしたルシスへと、思わず眉をひそめてしまった表情だと考えることもできます。ただ、これは我ながらだいぶ穿ちすぎた見方だとは思います。

ヨウたちの側ではひとまずヨウが生命の危機を脱し、ゼロの体も原皇によって保持されることで、今までの切迫した状況からようやく現状を整理しつつ次の行動に備える余裕が出てくるようになりました。ヨウの左足が接合され治癒しつつあることにもホッとできます。ここで命のないゼロの体の保持に原皇の端末化の能力を利用すること自体は、憑依の存在するオカルトものの定番の展開だけに予想できてはいたのですが、そこからゼロの記憶を読んでヨウの治療へと繋げてきた部分には素直に唸らされました。かつてヨウが救えなかったクリクスのためのもののはずだったマグメル外縁6区のエポナの涙が、この局面でヨウを救うために利用されるという因果の結実にはなんとも皮肉なものを感じます。ヨウがクリクスの両親の探検家バッチを掛けていった彼らの墓に生える植物が成長して花を開かせているという描写もあり、時の移り変わりには物寂しくなる思いさえします。

ここでで原皇がヨウを助けたことの第一目的は、もちろんヨウの記憶を読んであの島で感じた馴染みのある気配の正体を突き止めるためです。ただ17Pでふいに拾因が原皇の頭をよぎったことからも、拾因の後継者であるヨウ自身への興味のために利害とは別の部分でも命を救いたくなった部分も少なからずあるのでしょう。原皇はゼロの体を人質に取れることもあって自分が優位な立場からの話を進めようとするのですが、ヨウが狙いを察して自分から体を差し出すことを提案して原皇のペースを崩すという駆け引きが面白いです。いくら怪我をしていて恩もある弱い立場にいるからと言って、自分の体を好きにさせるようなリスクを利を得る宛もなしにヨウが良しとするとは思えないので、この交渉については何らかの考えがあると思っていいようです。読者にとっては、ここで原皇がヨウの記憶を覗いて第三者的な立場で整理してくれば、まだ不明瞭な部分の多いヨウの知識の範囲がはっきりすることも期待できます。

一連の会話では、原皇の端末になっているゼロが少女らしい体つきや顔立ちとは裏腹な大人びた表情と言動によって小悪魔的な魅力を発していて、ヨウとの会話に蠱惑的な雰囲気を漂わせているのがアブノーマルなこの作品らしい危うさがあって痺れますね。飛行機の外のトトも、理由もわからずさんざん連れ回された挙げ句に下女のように食事を作らされ、やけっぱちな明るさで適当な歌を口ずさんでいる様子が妙に可愛らしいです。トトの親しみやすさとバイタリティにはいい意味で彼女がお嬢様なことを忘れさせられてしまいます。ただ、女性陣を差し置いて今回一番印象に残ったのは、13Pの窓の外を眺めるゼロに気が付いた時のヨウの表情です。不安と僅かな期待が入り混じり、どこか迷子の心細さを含んだような微妙な感情の表れた一瞬が精緻に切り取られています。一転してのゼロが原皇の端末とされていることに気が付いた時の怒りも、激しい感情を大げさに類型化されたものとしてではなく、静かに観察しつつどこか突き放してさえいるように描写しているのが印象的です。

また、冒頭では久しぶりとなるクーたち聖国真類の様子も見ることができて嬉しかったです。律儀に罰を受けたためにこのエピソードでは合流できなかったクーの生真面目さが自然に微笑ましく感じられるのも、ゼロの蘇生が確信できたこのタイミングでの再登場ならではでしょう。相変わらずのミュフェと罰でしなびてしまったデュケの様子も面白いです。