群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第61話感想 ~自分のものであり自分のものでない記憶

natalie.mu

第61話 野望 24P

扉絵はいかにもデキる女風なトトです。もちろん探検家であるトトも本当の一般人に比べればデキる方の人間ではあります。ですが、普段はこういうキメた感じの印象がないだけに扉絵ならではのイメージ画像と言った感じでギャップが楽しいです。

これまでの展開で神明阿への対抗と聖国真類との同盟という方向性が定まり、今回はその具体化に向けた動きが始まりました。

ヨウとトトと原皇、同舟する

まず扉絵から引き続いてのトトたちの場面です。真っ先にヨウの体調を気遣うところが優しいトトらしいです。ヨウは無事な風を装うものの、原皇曰く全治まで一、二ヶ月はかかり足の神経も繋がっていないそうなので、聖国真類との同盟の交渉のパートではヨウの直接的な戦闘はあまり期待しないほうが良さそうですね。交渉に横槍を入れようとしている黒獄小隊との戦闘は避けられそうにありませんが、補助的な役割に回ることになるのでしょう。

この3人の会話では知り合ったばかりながらも呼吸のあった掛け合いをするトトと原皇が楽しいです。大富豪の遺産を受け継いだお嬢様ながらも逞しくてお調子者で人のいいトトと、おそらく世襲でない成り上がりの女皇らしいティトールの凸凹ぶりにはずいぶんと雰囲気が明るくなりました。ヨウも積極的に会話に加われるほどではないにしろ久しぶりに幾分か和めています。

記憶の中の彼女たち

第52話でヨウに流れ込んできたこのヨウでないヨウの記憶、おそらくは第33・34話の黒い瞳のヨウの記憶の中でもトトはこういう性格をしており、そのことからヨウは奇妙な懐かしさと戸惑いの両方を感じているようです。一方でティトールについては眼の前の彼女の腹の内が読みきれないことから、記憶の中の彼女との近さについては一旦考えるのを保留としています。わからないことを考え込むよりも目的を実現する方に注力するというのはヨウらしいですね。ただ、読者としてはヨウの知識の範囲がいまいち明確に示されていないこともあってもどかしい思いもあります。とりあえずこのヨウの反応から第33・34話の出来事が別のヨウの記憶であることははっきりしたものの、何故別のヨウが存在するのかという部分にはまだ仮説を立てることしか出来ません。ティトールの違いについても、記憶の中のティトールの本心が示されていないのでピンとこない部分がありますが、とりあえず最年長のエリンながら特別な地位にはついていなかったらしい記憶の中のティトールと、22のエリンの部族の原皇として君臨するこのティトールとでは、抱く野望において大きな差がありそうかなとは思います。

女皇様の高笑い

このティトールはヨウに対しては聖国真類との同盟に賛同したふりをしますが、真の目的はやはりというかこの世の全てを手に入れることにあるそうです。正直私としてもティトールが素直に仲間になったとは思えなかったので、マグメル深部での高笑いの悪女らしさには待ってましたと手を叩きたくなりました。早々に腹の内が割れたことでこの先で仕掛けるつもりの裏切りイベントがむしろ心待ちにできます。これを前振りに、裏切るつもりがいつの間にか本当の仲間意識が湧いてしまうといった可能性もちょっと期待したいです。イメージ画像の一糸も纏わずに地球をその豊かな胸に抱える姿も実にグッドです。私としては肋骨の真下の柔らかな肉の流れが的確な線で絶妙に描写されているところがたまりません。これまではオープンすぎて艶にかけるきらいのあった原皇ですが、大人の騙し合いが全面に出たことで俄然色香が増してきました。特別な能力の構造者だからという理由に過ぎないかもしれないにしろ、拾因のことを特別に意識しているようなのも面白いです。

暗躍する原皇

マグメル深部で原皇の本体は目標である因果限界が3つ発見されたという報告を部下から受けています。第36話で入手したヨウの構造力の解析結果を利用して拾因の因果限界を探すのを思いついたということは、2人が限りなく同一の存在である点については原皇も気が付いているようです。ただその仕組みなどのそれ以上の部分まではまだよくわかっていないように見えます。拾因が複数の因果限界を遺した理由もわからないようで、いかにもその解明がこの先の展開に関わってきそうです。因果限界の転送先が確認されていないのも実に意味ありげで、現状ではたとえば別の世界と繋がっている可能性さえも考えてしまえます。おそらくこうした点が複数のヨウと拾因の関係の鍵になり、扉の繋ぐ場所が明かされるときに謎にも新たな地平が開かれるのでしょう。

さらに原皇は神明阿の第4要塞を壊滅させる策を練ってもいます。今回の原皇によるマグメル深部の神明阿の要塞についての説明とそのコマの絵を見る限りでは、第4要塞とは第35話で黒獄小隊のリーが赴任していて新たに一徒たちも配備されたあの堅龍要塞のことのようです。激しい戦闘が起きるのはまず間違いなく、どちらが勝つにしろ久しぶりに彼らの出番がありそうです。ちなみに第3要塞は第29話でも出てきています。こうした要塞に駐屯する構造者の中には神明阿一族の血を引く者もいるとのことですが、若様でないとしたら神明阿アミルはどうなのでしょうね。とても気になります。黒獄小隊副隊長カーフェも神明阿の紋章のペンダントや性格を鑑みるに神明阿の血を引く可能性を考えたくなります。

記憶を超えた先へ

こうした説明も大切ですが、今回の本当のハイライトは原皇の拾った「いつもの」拾人者の服を見たことで自然に湧き上がったヨウの希望にこそあります。元からアウトロー的な立場にあるとはいえ、つい最近まではヨウとゼロにも彼らなりに拾人者としての「いつもの」生活がありました。現在は世界を救うため、衣装替えをしての神明阿への潜入やそれによるゼロの死などによって完全に日常から隔てられてしまってはいますが、それでもたどり着く場所に行き止まりの自己犠牲などでなく、あくまで元どおりに生きることとその先に進むことを選びたいというのは実にヨウらしいと感じました。ゼロと平和なマグメルでの冒険を楽しむというのは、かつて記憶の中のヨウが歩みながらももう二度と歩めなくなってしまった道でもあります。ヨウにとって、世界を救うこととは大上段に構えた正義などではなく、過去である未来の記憶を超えて生きていくために必要な手段なのではないでしょうか。雲、山脈、飛行生物、ヨウたちの乗る飛行機、それらが登る朝日に照らされ、ヨウの希望と決意にふさわしい静かな感動を伝えてきます。

そして飛行機から繋がるのが、今回のオチである飛行機の模型作りに勤しむオタク化した聖国真類です。こっちはこっちでかけがえのない日常を送ってはいるのですが、深刻さの落差に笑えてしまいます。どうやら完全に一から自作したらしい大量のオタク的な模型に囲まれつつ自分の世界に浸っている様子は、聖国真類としては惚れられている女からさえ小言を言われるのもやむなしといった感じです。原皇が神明阿の探検隊の島を襲った情報は既に聖国真類へ伝わっているかもしれませんが、これだけ他の文化も吸収できるクーならばヨウがいきなり原皇と共に現れても同盟を持ちかける余地はありそうです。最初から万全な協力体制とはいかないにしても、第43話で言っていたように情報を掠め取る名目で向こうから手助けしてくれる可能性もあります。聖国真類全体との同盟となるとかなり難しそうではありますが、取っ掛かりが全く無いわけではないだけに頑張って欲しいですね。