群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第62話感想 ~脅威に包囲されながら生きる

natalie.mu

第62話 境界線 24P

扉絵は第二部になってから本編ではまだ一度も再登場していないエミリアです。第一部ではレギュラーだっただけに、忘れられてはいないことがここで一応示されたのは嬉しいですね。本編での再登場にも期待を持ちたいです。もしかしたら出番が少ないことをラストで茶化される役回りになってしまうかもしれませんが、むしろストーリーにしっかり関わるかたちで出番が来るとなると酷い目に合わされそうですし、現状それなりに平穏な日常を遅れているのならそれはそれでいいのかもしれません。

今回の本編では、人界とマグメルの軋轢の脅威に包囲されつつある状況ながらも、ホームドラマめくほどにまともな日常を送る聖国真類のクーと、久々に冒険の傍らにある日常を取り戻した人類のヨウの様子が描かれます。

爆発するリアル

クーのパートでは初っ端から同郷の少女からお誘いを受けるという爆発的にリア充なイベントが発生します。眼福です。その後もオタク化をたしなめられたり人の良さに立身出世を悲観視されたりしつつも、そうした点さえミュフェには可愛げとして受け取ってもらえているようでプラス材料です。ふくよかなお母様からクーちゃん呼ばわりの子供扱いされていること、そんなお母様に反抗期まがいの口答えをすること、それを女友達にツッコまれること、まさしく青い春の真っ最中です。お母様からミュフェの子作りが応援されているように、聖国真類としてのクーは身体的にも立場的にも大人の仲間入りをしたとみなされてはいるのですが、だからこそケツの青い若造といった感じが際立ちます。ミュフェのお誘いを完全スルーするのも、大人らしく受け流しているというより反応できないガキっぽさのように思えます。こうしたクーの交友関係はなんとも羨ましいばかりです。

故郷でのクーの様子には、彼が聖国真類としての誇りを高く抱いていることを深く納得させられます。誇りの高さとは愛着の強さです。彼が人類に理解を示すのも、仲間や家族を大切に思うのを前提にした上でのことなのです。おそらく黒い瞳のヨウと知り合いのクーもそうだったのでしょう。それ故にあの時彼らは互いに目を逸らさなければなりませんでした。

真類の頂点と同盟

聖心祭に対する現在のクーの口ぶりから判断して、クーはそこで自分の実力を発揮して真類の頂点に立つつもりのようです。もしかしたら聖心祭では武芸大会のような催しがあり、その結果に応じて強者会のメンバーや族長が決定されるのかもしれません。そうでなくとも力を見せることが地位を得るのに直接つながっていることは間違いなさそうです。ならば族長とはいかずとも重役に就けるだけの結果をクーが示せば、ヨウの目指す原皇と真類との同盟計画がぐんと進めやすくなるはずです。ミュフェの言う通り実力以外の部分で不安は残りますが、ミュフェや場合によってはヨウの後押しがあれば十分に現実的な案にできそうです。

冒険の傍ら

ヨウのパートでは、久々にまともに冒険をしている探検家らしい探検家が出てきます。ヨウたちがたまたま結果的に彼らを助け、駐屯地に送り届けまではしないものの、久々に拾人者らしい働きをします。ヨウの超人性がまともにヒーロー的に発揮されてそう評価してもらえるのも久々のことで、なかなか感慨深くなる場面でした。しかし常人でありながら同行することになったトトはどうしてもこの超人性に現実離れを感じてしまうらしく、この騒動の最中テンションが現実逃避気味の妙なことになっているのが可哀そうですがおかしいです。

ねじ伏せて手懐けた危険生物を足にして、ダイジェスト風味ながらも小さな超常に溢れた5日間の旅の様子が描かれます。これほどの深部に来るのが初めてのトトにとってこれは言うまでもなく冒険の旅であり、常に脅威と驚異の両方を味わっているようです。トトのリアクションは読んでいて楽しい上に読み手の冒険への没入感を高めてくれます。ズームアウトしつつ姿を現す大転生の河のスケールの雄大さにはこちらまで息を呑みました。巨大魚の影と雲の塊のレイアウトが素晴らしいです。ただ、この旅はエリンである原皇はもちろんヨウにも居眠りがてらにこなせるもので、「険きを冒す」とは到底呼べるものではなさそうです。ヨウにとっては自分以外の冒険者の傍らにある日常を再確認することでむしろ癒しを感じているようにも見えます。

最初の難関

大転生の河はこの旅の最初の難関であり、その内側が真のマグメルになるという物物しさにもそれにふさわしい魅力を感じます。超空間移動プレートといういかにもハッタリの利いた言葉にも興味が激しく惹きつけられてしまいます。まさか本当に空間を超えて移動するプレートなのでしょうか!?今回は軽く流されてしまいましたが、わざわざトトが関心を持った描写がなされている以上、後の詳しい説明を期待したいところです。
そして旅の功労者である小鉄を原皇が一方的に尊い犠牲へと変える形で大転生の河の脅威が描かれます。改めて原皇は酷すぎる女です。名前を呼んで労を認めたとしてもその相手に手厚くするとかの発想は全く無いようですね。本当にイイ性格をしている原皇ですが、トトとの凸凹ぶりが面白くてこの性悪ささえもが楽しめてしまいます。二人の会話を横目に見つつ若干的の外れたことを考えているヨウのローテンションなボケも味わい深いです。このボケは発想の面白さからもたくましさからもヨウがとりあえず立ち直りつつあることがうかがえてホッとできました。なおかつゼロのことを気にさせることで根底の軸がずれていないことが示されてもいて、非常にうまい描写だと感じます。大転生の河という脅威に囲まれた先で暮らす聖国真類たちに接触するには難関を超えていく必要がありますが、今のヨウならば心配はいらないでしょう。