群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第63話感想 ~現状の戦力の確認

natalie.mu

第63話 河渡り 24P

マグメルでの冒険の難関突破を通じて、ヨウたち一行の戦力をはじめとした現状の確認をする回です。

心躍る危険

まずは原皇によって大転生の河に生息する生物の危険性が説明されます。リアリティを感じられるもっともらしさとファンタジー的な外連のバランスが取れていてなかなか面白い世界観解説です。特に河の魚の変異毒に強い肉体を持つクエスタクリーチャーなどなら対抗できても、それより戦闘能力があろうとエリンやヨウたちでは無理だというのは、バトルの枠を超えた場所でのサバイバル感があってワクワクします。

また、ここに限らず今回は捌くべき情報量の多い回なのですが、絵での解説にも力を入れ、情報量の疎密に変化をつけることで、説明がスムーズに飲み込めるようになっていて展開が素直に楽しめます。さらに、毎度のことながら説明を聞くヨウが「拾因に聞いていないかい?」と言われているのが可笑しいです。同じようなことはクーにも言われていましたね。確かに拾因は大事なことをヨウに伝えていなかったりましたが、細かい知識はヨウの注意力や記憶力不足で覚えていないのが大半な気がします。サバイバル能力には隙が無い分こういうところに人間味がありますし、笑えます。

未だ傷は癒えず

原皇が端末としているゼロだけでなく、ヨウの構造の能力でも手負いの現状では河の正面突破が難しいことが確認されます。一時は完全に会得した幻想構造だけでなく現実構造さえも満足に扱えず、通常なら問題なく突破できたはずのこの河にもきちんと本腰を入れて取り掛からなければならない状態です。その上で、常人のトトも連れている現状だからこそ、冷静さを保つためにあえてリラックスしようと努めているヨウが面白いですね。メタ的に見ても、マグメルのストーリーが陰鬱一色にならないためにはヨウに適度に明るくしていてもらう必要があるのですが、ゼロの死というシリアスな根底がないがしろにされているように見えてしまっても台無しですし、おちゃらけて振る舞うのはあえてだと念を押すことで上手くバランスが取られていると感じました。配慮のある描写が確認できたことで、これから待ち受けるだろう描写の難しそうな展開に対しても自然と信頼感が持てます。

知恵ある性悪たち

戦闘力の物足りない現状のパーティで河を突破するために、ヨウと原皇は息の合った連携を見せます。この時にいちいち細かい確認をせずともお互いの手を把握しながら動いているのが、2人が同格の知恵の持ち主であることを示していて興味深いです。それにトトが置いてきぼりにされかけつつどうにか付いていかされていて、読者とヨウたちとの距離感の一面も端的に表れているようでなおさらに面白いです。

ヨウを囮にして背後から原皇が攻撃を仕掛け、雷覇龍魔を飛び立たせて河の生物を追い払うという作戦自体は理に適っていて、これまでの冷静な雰囲気に則ったものです。雷覇龍魔のクエスタクリーチャーとしての威厳のある力強さの演出も的確です。そこにアクション面でもサプライズ面でも思わぬ動きをつけてくれるのが、原皇によるオーバーキルな巣の卵への爆弾攻撃です。単なる作戦遂行以上に18Pでの「こういう偉そうな奴を屈服させるのが楽しいんだよねぇ」という欲望を満たす気が満々で、実にいい顔をしています。さすがのヨウも引き気味です。共闘中とはいえ裏切るつもりなのを読者は知っているので、100%悪役ムーブメントな過激さにはある種の爽快感さえ覚えてしまいますね。この先原皇がやはり敵となるのか、それとも本当の意味で何らかの協力がもたらされるのか、興味は尽きません。

他方で、現状まさしく敵である神明阿一族がマグメル深部侵攻のための戦力を整えている様子も確認でき、そちらも目が離せません。少ないページ数ながら、思い切った見開きの迫力で表される部隊の規模と、ルシスとアミルの存在感は、ヨウたちの冒険に確かな影を落とそうとしています。マグメル深部にも人間の暴力の気配が確実に迫っているのです。