群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第65話感想 ~違う自分たち

natalie.mu

第65話 親友 24P

今まで小出しにされてきた伏線的な要素に一定の方向性が与えられる情報整理が中心の回です。ラストでは思わぬピンチやファンには嬉しいストーリーの進展もあり、バトルは無くとも静と動のメリハリが楽しめます。

2人のヨウと3本の鍵

描写から推察はできても確信は持てなかったあの黒い鍵はいつもの世界に3本あるのではという疑惑が解明され、確定事項として扱えるようになりました。持ち主も、①いつものヨウ、②いつものトト、③第53話や第58話などで登場した「アイツ」、の3人だと確認されました。この種の作品だとどうしても信頼できない語り手の問題を考えずにはいられないのですが、ヨウは違う自分の記憶が再生されたことで概ね真実を把握したようですし、読者に明かしていない情報は多いものの独白で示した事柄については今のところミスリードではないと考えていいはずです。

ヨウたちと念動結晶の性質

鍵の持ち主の謎で焦点となるのが「アイツ」の正体です。第10.5話のヨウは、服装が同一である点やルシスと初対面の時から既に鍵を手にしている点から、いつものヨウではなく「アイツ」であるヨウと同一の個体である可能性が高いと思われます。だとするといつもの世界に少なくとも現在はいつものヨウと「アイツ」の2人のヨウが存在することになります。感知できた宝箱は1つだけであり、並行世界の存在までは感知できないと考えられるからです。第10.5話の出来事も別個体のヨウの出来事でありながら、別世界でなくいつもの世界で起きたのかも知れませんね。「アイツ」が最初からいつもの世界で生まれた個体なのか、あるいは別の並行世界から転移してきたのか、いずれにせよこの先の展開に深く関わってくることは間違いありません。

またヨウによるといつものヨウの鍵か「アイツ」の鍵かのどちらかが完全構造力で複製された物だそうです。紐のついたこれらの鍵は第52話で黒髪のゼロからちぎれ飛んできた物のはずで、だとすると以前の持ち主は黒い瞳のヨウだった可能性が高いです。それをいつものヨウはインがくれたと言い(ますが実際は拾因の遺体の傍で拾った原皇から受け取り)、「アイツ」も第10.5話で古い友人からもらったと言っていました。拾因が黒い瞳のヨウと深い関係を持っていることは間違いないものの、完全に同一の個体なのか、聖心の力を借りるなどしてつくりだされた黒い瞳のヨウの複製なのか、それ以外なのかはまだ断言できません。完全構造力による複製というキーワードが、いつものヨウ・ゼロと「アイツ」であるヨウ・ゼロという全く同じ身体的特徴を持つ2組に関わるのかも謎です。文字通りの謎の鍵の素材である念動結晶の、分割された同一個体が引き合うという性質はいかにも示唆的です。

オーフィスのお題

話は逸れますが、引き合う念動結晶製の鍵と鍵穴なのでそれを知っていれば地図は必要ないという点、大きな念動結晶の大部分が鍵穴の中に仕込まれている点、希少な鉱物である念動結晶は宝と呼ぶにふさわしい点などからするに、あの宝箱の中身の小切手とは表向きかつ目眩ましの宝に過ぎないのではないでしょうか。第33話でオーフィスがヨウとゼロにろくなヒントも与えずに鍵だけを預けて歩行樹に置いた宝箱を探させたのも、鍵が念動結晶製であるのに気付き宝箱に隠した念動結晶を見つけることこそが裏かつ真のお題だったからという可能性が考えられます。あのヨウとゼロは自力で宝箱にたどり着き小切手を得ましたが、それではオーフィスの意図からするとバツではないにしろ三角だったのかもしれません。

過去のヨウ

ヨウは拾因との想い出の家を訪れ幼い頃の自分を振り返ります。かつてペットを一口も残さずペロッと食べたという内容がさらりと扱われるとんでもなさが、ヨウでないと成立しないギリギリのバランスで興味深いです。ヨウは一見全く意に介していないようですが、「…一口もくれないんだね」という拾因の言葉に対する反論で全て食べたことだけでなくプーちゃんに手を出したこと自体にまでわざわざ言及した点からするに、拾因が初めの言葉に続けてそのことをたしなめようとしているのを察して先に弁解しておきたくなった様子がうかがえます。留守にする自分の身代わりに寂しくないようにと拾因が残したプーちゃんを食べてしまったのがまずかったことくらいは、当時のヨウでも理解していたようです。ただ、ずっと放って置かれて拗ねるヨウに対して、拾因が叱るのをやめて謝った気持ちまではまだわからなかったでしょう。わからないなりに印象に残ったらしいその拾因の表情を、自分が保護者的な立場となっている現在のヨウは、懐かしく思い出しつつも身にしみて理解していたはずです。

主人公であるヨウ

今のヨウには守るべき家族も気の合う同行者もいますし、進んでみんなと食糧を分け合う気持ちもあります。そして頼りになる親友もいます。

追ってきた雷覇龍魔から家族の想い出の家を守るため主人公が立ち向かうという勇ましくも絶体絶命の場面で、颯爽と登場し危機を救うというライバル系キャラとして実に美味しい出番をクーがもらっての久々の2人の再会です。ただヨウ視点での再会の演出がドラマチックに決まっているだけに、深層心理的な部分や実際の行動ではともかく言葉の上ではクーの側は友達だと認めていないということを考えると、若干こそばゆいというか青春というか茶化したくなるところもなくはないのですが。

後でお互いにもう少し踏み込む機会があるのかどうかはさておき、この微笑ましい友情が続けられるかどうかは人界とマグメルの関係の行方にかかっています。そのためにまずヨウは聖国真類と原皇の同盟を成立させなくてはなりません。クーはもちろんミュフェとデュケも交渉の余地はありそうですが、それ以外の聖国真類はヨウに対して警戒心を露わにしています。体が傷ついている今、ここでの手腕が主人公としての見せ場になるだけに、ヨウにはその知恵と胆力を遺憾なく発揮してほしいです。