群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第67話感想 ~悪役の生き方

natalie.mu

第67話 遺言 24P

黒獄小隊と原皇の本体の動向がメインとなる回です。主人公のヨウは社会的に善良な人間ではありませんし、聖国真類も完全に潔白な勢力というわけではありませんが、三大勢力の内の悪役としての役割を担う二勢力の掘り下げがあります。

任務の失敗

聖国真類と原皇の同盟成立を阻止するという任務を受け、カーフェ率いる黒獄小隊14名はヨウの暗殺を図りますが、早々に失敗します。聖国真類が人間如きを迎えに行くとは予想できなかったためであり、ヨウとクーの信頼、さらに連絡を繋いだ原皇と、現在のヨウの人間(とエリンの)関係が彼らの大きな力になっているのがうかがえます。8対2~3人という頭数の差もさることながら、名指しでクーが暗殺不可能な理由に挙げられていることは、そこから彼らの力量の格をおおよそ把握できて興味深いです。あと単純に嬉しいです。

死に臨んで笑う

カーフェたちは再度任務に挑むのですが、作戦内容は200人以上の構造者のいる聖心城の聖心祭に突入するという絶望的なものです。それをピクニックという言葉で表し任務はついでという言い方をするのが、カーフェらしく意地の悪い遊び心で面白いです。

全滅が必至だと確認され遺言を残そうという話になった時さえ湿っぽさは全く無く、やけになった面もあるとはいえ隊員全員で笑って前向きになっていることが、刹那的で享楽的に戦いへ挑む彼らの価値観を示しています。遺言というかたちで一気にキャラ立てが行われ、描写の手際の良さに唸らされます。どのセリフも表情も、簡潔ながら端的に彼らひとりひとりの生き生きとしたキャラ性を伝えてきます。リーたち3人、フェルミオン、隊長も話題にのぼり、黒獄小隊19名全員に言及があるのが丁寧でいいですね。各人の遺言単体では黒曜のものがあるある感があって面白かったです。主人公側の男2人が色めいた話では淡白すぎる分、悪役に親しみの湧く俗っぽさがあると妙に印象に残ります。ですが続くバールの遺言は俗っぽさの極みと言うべきか、むしろ開き直った度胸を認めるべきか、とにかくとんでもないオチがつきました。ボーガンの遺言自体もベッタベタさにクスリときたのですが、それが仲間内の残酷な真実の前フリに使われると思ってもみませんでした。しかしそれさえもがギャグとして扱われ、2人の取っ組み合いが隊員たちの賑やかな喧嘩に発展していき、結局はみんなで楽しくなっているように見えます。間違っても身近にはいてほしくない連中ですが、悪役なりに仲間意識があったり楽しそうにしているところを見ると、読者としては愛着が持てて面白いです。

部下たちを眺めながら、カーフェは笑みを浮かべつつも禍々しくそして真剣にマグメルの統一という願いを言い残します。いつも人を小馬鹿にした態度のカーフェですがこの願いは本気のもののようです。何か裏付けとなる過去はあるのかないのか、あったとして描写されるのかどうかはともかく、悪役にも悪役なりの信念があるのはいいですね。任務の性質や、これまでの行動や、目の前の無関係のエリンの集落を聖心祭に突入する際の供物にしようとしているなどことから、カーフェが黒獄小隊副隊長として死ぬことからは免れないでしょうが、最期まで彼なりの信念は貫いてほしいです。部下たちともども派手に殺して派手に散ってくれることを期待します。

華の散り際

原皇は端末としたゼロの体でヨウたちと同行していますが、裏では本体で神明阿の第四要塞へ進軍しています。マグメル統一の野望を改めて示し、完全構造力で何かを企み、原皇が少なくとも今はまだ毒の華のような美しさとともにヨウたちを欺く敵であることが確認されます。ここで注目しておきたいのが「三大勢力のうち二つが滅んでこの戦争は終わる」という原皇の独白です。敵の野望はくじかれるべきものであることを考えると、話の展開上クーたち聖国真類が生き残るのは間違いないとしても、それが残り2つの勢力の滅亡を意味するとは限らないという気がします。原皇でないティトールは第33・34話のヨウにとって紛れもない仲間だったようで、それを知る現在のヨウも一応は仲間になったティトールをできれば死なせたくはないでしょう。彼女は負ければ滅ぶと考えているようですが、それでも生き延びさせられたり裏切る機会を逃してしまったりする可能性はあります。一方で完全に敵である神明阿一族は、散ってこその悪の華を感じさせる勢力ですし、多くの当主や幹部を亡くし人界への支配力を失うことは避けられないはずです。ただ、だからこそ見苦しくとも生きていかねばならない者もいるのかもしれません。

何はともあれ、先のことを考える前にまず目の前の戦いを片付ける必要があります。原皇は残り10キロと迫った第四要塞を見据えて微笑むのですが、背後の空間から静かに神明阿ウェイドが浮上しています。演出が完全にホラーのそれで、不気味さに息を呑むとともに、恐ろしさから伝わる強さにも興味が惹きつけられます。拾因より条件は厳しそうですが、どうやらウェイドも空間の接続に係る幻想構造を持つようです。第59話で「美しく生き美しく死ぬ」と言っていたウェイドと、150年前に因縁があるらしい原皇とが、どんなバトルを繰り広げるのかが楽しみです。