群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第68話感想 ~受け継ぐもの

natalie.mu

第68話 交渉 24P

原皇ティトールと聖国真類の強者会との同盟に向けた交渉が行われます。ともすれば退屈になりがちな場面ですが、各人の意見と立場がはっきり示されたことと同盟成立の条件が1話で明確になったことで複雑な状況がわかりやすく整理され、密度のある舌戦の緊張感が楽しめます。

扉絵の人間の女性はちょっと見覚えがありませんね。今後重要となる人物の先行登場でしょうか。もしくはさり気なく登場していた人物を、本編でまた出る前に再登場させたのかもしれません。

同盟の条件

同盟締結のため強者会の6人の出した条件のうち、4人の分は表向きでもティトールが検討を受け入れられるものでした。この中で個人的に面白かったのは宣誓を石碑に刻み各部族にも送るという条件です。第年秒先生のセンスもあって聖国真類の文化からは大陸のアジア的な要素を感じることが多く、この条件からも実際に中国周辺の多くの地域で多くの民族が多くの言語とともに残した石碑の数々を思い起こさせられます。中華圏では古来から歴史を記録し受け継ぐことを重視する傾向が強いとされています。

同盟の障害となるのは残り2人の分の条件です。ティトールは聖心祭での強者会のメンバー入れ替えの大会でクーを支援することを提案し、そこまでは私も予想していました。しかしクーを利用することにヨウが反対したというのは意外です。リアリストなヨウではありますが、現在はゼロを助けるために行動しているからこそ親しい相手を危険な目に合わせたくないようです。とはいえ強者会入りはクー自身の望みでもありますし、黒獄小隊の乱入もほぼ確実ですが、自力で1人は蹴落として欲しいところです。同盟締結の点からは、絶対反対の立場を取るトワと入れ替わりになれば交渉が前進しそうです。さらにヨウは残り1人のラーストの出した条件と原皇の面子を折り合わせる方法を考えており、ここが知恵の見せ所となるのでしょう。能力の封印に抜け道があることは今回の手枷とイヤホンの件で示されていますし、主人公の活躍にふさわしい面白いアイディアを期待します。

150年前の遺恨

ラーストの出した条件にしろ、カイン・サイ・ナイルの出した条件にしろ、焦点は150年前にフォウル国が聖国真類を裏切ったというある事件に置かれています。フォウル国が聖心に侵攻しようとのことですが、神明阿ウェイドとティトールが接触したというのですから神明阿一族も絡んだ事件のはずで、具体的に何が起きたのかがとても気になります。当時の指導者だった先代とティトールの関係にも興味がそそられます。黒い瞳のヨウとともにいたティトールが原皇の地位になさそうなことから私は今までティトールが原皇なのは生まれついての世襲ではないと考えていたのですが、強者会との会話のニュアンスからするに王朝交代のようなものは起こっておらず先代とティトールは血縁だと考えたほうが自然なように思えてきました。だとすると6Pの回想でティトールが抱えていた首は先代である父か祖父、あるいは後継者となるはずだった兄のもので、150年前の事件の直後の可能性が高いのではないでしょうか。ティトールの年齢は中文版では200~300歳なので、人間でいう10代前半と思しい回想の外見的にも妥当なはずです。23部族が22部族になったというのも、ティトールの一族が彼女を残して全滅して部族とは呼べなくなったことを指していそうです。黒い瞳のヨウの世界でティトールが最年長のエリンのひとりなのは、長寿だった彼女の一族の年長者がみんな死亡してしまったからでしょう。もちろん原皇は世襲でなく、先代の失策によりティトールの一族が滅亡したため彼女が簒奪者となった可能性も残されています。どちらにせよ黒い瞳のヨウの世界とこの世界のティトールの、負の面も含めたフォウル国を受け継いだかどうかの立場の違いには、150年前の事件の影響の仕方の違いが関わっているのかもしれません。

種族、一族、家族

現在種族としての最強は聖国真類ですが、個としての最強はティトールだといいます。そんな彼女が聖国真類に感じている嫉妬とは、聖国真類が一族として存続していることそのものに対するもののように思えます。聖国真類がおめでたい風習を維持できること、弱肉強食の世で自分たちの価値観を信じられること、それらを語るティトールはただ妬んでいるというより寂しげでさえあります。一族唯一の生き残りかもしれず原皇として孤高にあるティトールと、祭を前に賑やかに飾り付けられた里の様子や久しぶりの人間を面白げに見つめる人々の様子はひどく対照的です。

聖国真類はティトールの言う通り鼻持ちならず更に堅苦しくて交渉には苦労させられそうな相手です。ティトールが表向きながらヨウたちの味方なこともあり、ムカつくという彼女の感想は大いに頷け真類をやり込める手口にも期待したくなってしまいます。とはいえその傲慢さは事前の情報やクーの性格から予想できる範囲ですし、何よりも里にはいきいきと暮らす人々の営みがあります。飲み物を取りに行った先での生活感も印象的です。両者の納得の行く形でこの同盟の交渉が成立することを願いたくなります。もし今回は決裂したとしても、最終的には人類も含めていい落とし所が見つかって欲しいものです。それは黒い瞳のヨウの叶わなかった夢であり、現在のヨウが受け継ぎ、そして彼自身が叶えたい夢でもあるのです。