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群青のマグメル第70話感想 ~丹と黒髪

natalie.mu

第70話 対峙 24P

神明阿一族の第四要塞対フォウル国の戦闘が本格化します。まず一般戦闘員同士の命懸けながら前哨戦的な衝突から始まり、戦闘員を圧倒する神明阿ウェイドを描写する中盤、そして両勢力の頂点同士の激突を予感させて次回への引きとするラスト、と構成が整った回です。

扉絵は第43話のヨウとゼロが世界を巡っていたときの回想ですね。本編で2人に出番がない回の分、ある意味での空中戦繋がりでの出演ということでしょうか。

漢字という表意文字

前回を読んだ限りではウェイドの能力は盾の漢字が刻まれた盾の幻想構造だと思っていたのですが、今回の話からそれは能力の一部でしかなかったことがわかりました。どうやらウェイドの能力とは漢字一文字で示される意味とそれを具体化した構造を行使する力のようです

「盾」に続き、「剑」(剣の簡体字)と「丹」の漢字の力が使われました。「剑」は剑の文字が鍔に刻まれた柄の構造を持ち、対象を切断する力です。この切断は自動的に空間の一定部分を切り裂くというより、見えない刀身か出し入れ自在の刀身があってそれを構造の操作や体術で振るうことで起こると考えたほうが良さそうです。20Pのウェイドの周囲に浮かぶ5つの力の塊のうち2つは明確に柄と盾であり、力を行使できる漢字の種類もこの5つで全てかもしれません。今回のラストから繋がるだろう第68話のラストでウェイドの背後に浮かんでいる力の塊の数も5つです。組み合わせて熟語や文章を作るといった文字の能力でよくあるような使い方は今のところなさそうに見えます。ただ、実は隠した種類の力や応用方法があったりするのも能力バトルの定番なので、これからもバトル描写は細かいところまで目が離せません。

丹の思想

ウェイドの使った漢字で知識がないとわかりにくいのは「丹」の力ですね。丹の持つ赤色という意味については今の日本でも丹頂鶴の丹としてよく知られていますが、元々は硫化第二水銀という赤い鉱物を指す漢字です。そしてこの硫化第二水銀・丹とは中国で長年不老不死や若返りをもたらす薬の原材料だと考えられていたものです。中国で不老不死を目指す神仙思想が長く関心の的となり、それを発展させた道教が根強く信仰されていたことは周知の事実でしょう。直接の信仰はほぼ失われた現在でも、その影響は文化として間接的な形で、あるいはファンタジーの題材という形で息づいています。

以下少々余談となりますが、不老不死の薬である丹薬・仙丹を製造するための技術は錬丹術といい、日本ではおそらくこちらのほうが有名な西洋の賢者の石や錬金術とも密接な関係を持つものです。秦の始皇帝が不老不死の薬を研究するうち水銀中毒で寿命を縮めたという逸話は真偽はさておきよく知られていますが、その薬こそが丹薬なのです。この後も古代中国では不老不死を求めた皇帝が何人も水銀中毒で死亡し、丹薬を化学的な物体として調合する試みは下火となりますが、それでも丹薬という概念と探求の試みは生き続けました。代わって盛んになるのが人体を炉に見立てて気を練ることで体内での丹薬の生成を目指す方法論です。丹薬を体外で錬る術を外丹術として区別する場合、こちらは内丹術と呼ばれます。現在の気功や太極拳などの気の概念の関わる武術や健康法にまで繋がっています。

話題を戻しまして、20Pで「丹」の文字が出た直後にウェイドの若返りが始まったのは錬丹術の作用と見て間違いないはずです。16Pでいう薬も丹薬のことでしょう。薬=再生死果と解釈できなくもないですが、話の流れからして可能性は低いと思われます。ウェイドが薬の残量を気にしていることからすると、若返りの効果は一時的なものでなおかつ回数や合計時間の制限があるようです。再生産がもし可能だとしても、手間や時間を要する錬丹術の性質を反映していそうです。

ジャンプ系のバトル漫画で実力者の老女の若返りというと、力を高めると細胞が活性化して一時的に最盛期の肉体を取り戻すといったメカニズムを連想しそうですが、おそらくこの場合は違いますね。

黒髪

若返ったウェイドの姿は予想通りというより予想以上に美しいものでした。髪の色が黒なのも予想外ながら、若返りを視覚的にわかりやすく魅せてくれます。最終ページの憂いを帯びた流し目の色香を引き立てる効果も抜群です。

それにしてもウェイドはほぼ完全に西洋人だったアススやリリと比べると、目をはじめとした顔立ちや名前に一族としての連続性は残しつつも、漢字・丹・黒髪と東洋的な性質の影響も色濃く出ているように思えます。この違いとはコールドスリープに入った上祖の中では最も古く500年前に眠りについた209代目当主であるアススと、最も新しく150年前には若かった218代目当主であるウェイドの違いなのでしょう。つまりそれはユーラシアの西から東へアススが新たにたどり着いた地での、数百年に渡る神明阿一族の歴史の経過を反映した違いでもあるのです。

 

※次回の感想は私事により数日遅れる可能性があります。