群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第71話感想 ~王を継ぐ前の彼女たち

natalie.mu

第71話 旧友 24P

扉絵はハートのキングになぞらえられたティトールとウェイドです。ハートとはいえトランプでは2番目に大きい数のクイーンでなく1番目のキングだというのが彼女たちらしいです。今回はそんな2人が王になる前の過去の一端が明かされます。
なお、最後のページのアオリ文の「不亦楽乎」は論語の「朋有り、遠方より来たる。亦た楽しからずや。(友人が遠方から訪ねて来てくれる。なんと楽しいことではないか。)」の後半部分の原文です。

150年前の三大勢力

これまで断片的に情報の出ていた150年前のフォウル国・神明阿一族・聖国真類の紛争の概要が明らかになりました。

まず、当時のフォウル国の対外的な行動や計略は現状とほぼ同じものです。先代の王の一族は真類に滅ぼされたということからティトールとの間に血縁は無いのですが、国家だけでなく方針まで継続させていることになり、なかなかに興味深い姿勢ですね。三者痛み分けではあったものの、戦争を仕掛けながら勝利できずに殺害された初代原皇の政治体制を捨て去る道をティトールは選ばなかったのです。エリンの頂点を目指したのは彼女自身の野心によるものでしょうが、二代目原皇として部族連合体制を維持し負債をも背負ったのはそちらの方が得策だと判断したからなのでしょうか。

現在のティトールとヨウ

先代原皇の後継者としての自分をティトールがヨウに語ったことは2人の関係において重要なポイントです。他人や社会をあまり気にしないヨウには、ティトールの話も戦争の深刻さよりもかつての身内と同じ夢の実現を目指すティトールの姿勢の方が心に留まったような態度を見せます。拾因の後継者としては自らに通じる話のように受け取ったとさえ思えます。
死後に偲んでいるからという面はあるにしろ、「自分が悪かった」という遺言への悪態と感慨の滲ませ方を見るに、ティトールも仕えていた先代へは個人的な思い入れがありそうです。自ら新しい国を作るより継承することを選んだのも、あるいはそうした感情が関わっているのかもしれません。回想からすればティトールには殺害された家族がいたようですが、先代との関係を考える上ではそのタイミングが気になります。家族が殺害されて敵と戦うために先代の幹部になったのか、幹部として活躍する中で家族が敵に殺害されたのか、それ以外なのか、気になります。

また、後継者ながら悲劇の繰り返しは回避したいヨウからは、先代と同じ結末に至りかねないティトールは危なっかしく見えているようで、控えめながら警告と手助けの提案をしています。ティトールの結末がどうなるかは結局は彼女次第ですが、やはりヨウとしては一応でも仲間であるティトールに破滅してほしくはないのでしょう。

150年前と現在の彼女たち

150年前のウェイドがまだ当主を継いでいなかったことや若かったとはいえ白髪の目立つ年齢に差し掛かっていたことなども新たな情報です。当時のティトールとウェイドは若者と老いの陰りつつある女性という間柄で、現代でも結果的にそれに近い肉体年齢の差があります。それがウェイドの若返っている今は、2人とも同じだけ若々しいかことによれば外見年齢の差が逆転しているようでさえあるのが興味深いです。また、この回想でのお茶を飲んでいるときの作法や能力の説明のイメージ画像での雲気の描かれ方、武侠で定番の大量の剣を気で射出する技に似た能力など、ウェイドが中華圏の影響を強く受けている人物なのが改めて確認できます。能力そのものも中華圏的な要素が多いですね。四宝真仙だった時の構造の詳細についてはティトールも熟知しているそぶりで、2人が旧知の仲であることが伝わってきます。

あとあまりツッコむと野暮になる部分ですが、2人が新たな構造である“丹”について探り合っている時に、ティトールが丹というものについてどのくらい知識があると想定して良いのかということは少し気になりました。ウェイドの若返りに衝撃を受けていない点からすると丹の効果についてはティトールも見当がついているようですが、現象から察しているだけなのか丹・錬丹術の知識があって考えついたのかは作中の描写からはまだ判断がつかないです。今回のラストはウェイドの頭部が両断されるという衝撃的な引きですが、丹が不老不死の薬だと知っていて丹の構造だけ説明がないのに気が付いた読者目線からすれば本当に決着がついたのかが疑問に思えてしまい、ティトールの視点からはどう捉え得るものなのか知りたくなります。エンタメ作品では基本的に作中の言葉や文化の違いを考えすぎないのがお約束ですが、自分もこの作品の作者とは違う文化圏に属する人間なだけに必要以上に興味が湧いてしまうところがあります。