群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第73話感想 ~目の確かさ

第73話 掌の上 24P

ティトール対ウェイド戦に一旦の決着がつきます。まだもう一波乱ありそうな幕引きですが、ウェイドの消耗具合からすると本格的な再戦はもしあったとしても後ほどになりそうです。

見極める

ティトールは端末とした相手の構造を使用できる能力を活用し、多数の能力を同時使用した戦術で神明阿ウェイドを翻弄します。バトル漫画では相手の能力を解き明かす過程の面白さも捨てがたい魅力ですが、複数同時使用での検証を綿密に行うと相当に煩雑になってしまうだけに、このバトルでは個々の能力を冒頭で読者に明かした上でそれらの組み合わせ方や騙し合いのアイディアにより楽しませることに注力されています。
ウェイドからすると今回ティトールが使用した能力は初見のものばかりであるようなものの、数手の攻防で使用中の能力を見極めていき、展開がサクサクと進みます。概ねウェイドのモノローグに沿いつつバトルが行われますが、ウェイドと読者の視点が一致して進むというより、ウェイドが読者の視点まですぐに追い付いてくる話の構造となります。ウェイドの読みの鋭さは少々ご都合的ではあるのですが、経験豊富な強者だけに言語化する間さえなく能力の正体を見破ってもおかしくはないですし、何より読者は予め正解を教えられているので置いてきぼりの感覚や違和感が出にくいようになっています。駆け引きの一手目である煙に巻く龍の消耗をめぐる大規模な構造の行使にも迫力があって楽しめます。

読みの上の上

今回のバトルのキモとなるのは偽りの星での駆け引きです。この部分は偽りの星の重力制御により浮遊していたはずのティトールがいつの間にか現実構造を足場にしており、実は気づかぬうちに接近していた偽りの星が増幅させた重力をウェイドがまともに食らってしまうという流れになっています。ただ偽りの星の重力制御能力は読者に説明されていてもティトールの浮遊がそれによるものだとウェイドが考えた瞬間が明示されず、むしろ読者はヨウなどで現実構造での浮遊がお馴染みになっているため、前振りでの誘導が弱くてウェイドがどう騙されて何に驚いたのかというオチが少しわかりにくい気がします。テンポの良さで余計な疑問を押し切る必要がある回だけに、勢いを削ぐ要素は目に付きやすいです。
もっとも描写の親切さはともかく筋自体には問題ありませんし、キモのアイディアへさらに畳み掛けるように重力を移動速度の遅い幻想である千変万布の加速に使うという仕掛けも一捻りあって面白いです。「鈍い幻想」は「鈍い」にふりがなが無く少し迷いましたが、読み方は「にぶい」でなく「のろい」の方ですね。

目の曇り

ティトールは幾手もの騙し合いの末にウェイドの無力化に成功します。ですがその要であった未来予知の幻想構造である終末絵本の使用を、最後の最後まで来てやめてしまったのには不吉なものを感じざるを得ません。五宝真仙の全ての能力が使い尽くされず、ティトールに動物化したウェイドをすぐに始末する気が無さそうなのですからなおさらです。どうやらティトールは因縁の相手を自分の手元でパンダとして愛玩できる嬉しさで浮かれてしまい、目が曇っているようですね。ともに女性でありともに頂点に立つ2人だけに、この戦いでティトールがウェイドをしばしば殺しそこねているのは、単なる詰めの甘さもさることながら、生死以上の部分でも相手の優位に立ちたいという執着が多少なりと影響しているのかもしれません。

仰ぎ見る

他方で、ティトールとウェイドの戦いを神々の領域のものとして仰ぎ見ているのが一徒たち一般の戦闘員です。戦局を直接左右するほどの力は無いとはいえ、勢力同士の戦闘である以上は彼らの動向も見逃すことはできません。現状フォウル国の戦闘員の一部が第4要塞の侵入に成功し、ウェイドが封印されているとみられる以上、神明阿側の一徒たちには不利な状況です。一徒は彼なりに野心めいたものはあるものの、なまじ判断能力があるだけにダーナの繭に続いて自分の実力不足を理解してしまっているようで、この中途半端さがどちらに振れていくのかに興味が湧きます。上手く行くにしろ行かないにしろ、本筋と関係が薄い故の先の読めなさや人間臭さは脇役ならではの面白さです。