群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第81話感想 ~正史には残らぬ

第81話 物語達 16P

扉絵はバトンリレーをする第年秒先生の漫画の主人公たちです。1人目は日本語未翻訳の『長安督武司』の雲心暁、2人目は『5秒童話』の童、3人目は『拾又之国(群青のマグメル)』の因又(インヨウ)です。4人目にはちょっと見覚えがありません。もしかしたら構想中の新作の主人公なのでしょうか。

ティトールがメインとなる回です。彼女の視点で、戦いの場である2つの舞台の現状について整理されるとともに、もうひとつの舞台での新たなドラマの始まりが描かれます。本編の最初のページで3つの舞台すべてが示されています。

戦場を物語る

まずティトールのモノローグによって現状の詳細が解説されるのは、第80話の続きであるヨウ・クー(・ゼロを端末としたティトール)対黒獄小隊の戦いが始まる寸前の泡沫の遊びの内部の様子です。ここでティトールはさしあたりこの戦いの傍観者となることを選びます。ゼロの体の構造力は封じられており、体調も悪く、黒獄小隊と戦っても力を浪費するだけと考えたためで、賢明な判断と言えるでしょう。

また、本体は第78話から続く神明阿当主との2体1の戦いの当事者となっている真っ最中であり、無駄に構造力を使う余裕がない状況でもあります。とはいえ消耗した状態から人類最強の当主2人を相手に互角のラウンド2を繰り広げられるのですから、改めてティトールの最強生物としての格を思い知るばかりです。自分が把握していない情報の存在を意識している点も含め、お互いの手札を読んだ上でティトールは最善の判断を下そうと努めています。しかし、そうした策略を超えて、ひたすらに闘うことに喜びを見出す獰猛な戦士としての顔を見せる彼女もまた、実に魅力的でした。美しさと凄みのある一瞬の切り取られた表情が素晴らしいです。

作者と読者のロマン

3ヶ所目の舞台は前の2つとは違い現状は平穏そのものの人間界です。第78話のラストでティトールの端末である人間の女性に声をかけようとした若者は、実は彼女を通じてティトールが描いた絵本のファンだったのです。2人は他所での激闘が嘘のように静かな会話を交わすことになります。おそらく気晴らしにわずかな絵本を出しただけの作者と、技術はさておきその世界観に惚れ込んで憧れた読者が、偶然に街中で出会うというシチュエーションはなかなかに運命的です。男女とは言っても直接的な色の匂いは薄いのですが、だからこそのロマンを感じます。

ティトールは元から口が悪く、若者は悪気こそなくとも舞い上がっており、2人とも相当に言葉にすべきでないことを言葉にしているものの、その粗雑さが落ち着いたムードと不思議と調和しあって独特の雰囲気が醸し出されています。ノワールものや任侠的もとい武侠的な、無頼を背景とした物憂い甘やかさを含んだ空気感です。定番的ですが、ラーメンカフェの出際にティトールが言った「次があったら」などはやはり格好良いセリフです。

裏社会という意味でいえば、ティトールはまさに人間の歴史から隠蔽された裏の世界における、敗戦した自国にて力で成り上がり頂点に至った武装集団の頭目と言えます。会話の相手が真実を何も知らない無力な堅気の人間である点も、不釣り合いで儚い交流であることを印象付けるお約束のスパイスです。

おとぎ話の真実

しかし最後のページにて、偽りの立場という後ろ暗さに引き立てられたロマンチックなムードは、妖精少女の絵本というメルヘンの内に歪められた凄惨な現実の示唆へと突如反転します。

第68話以来引っかかっていたあの幼いティトールと生首の男性の関係がついに明かされました。生首が彼女の父親のものなのは予想できる範囲でしたが、殺害したのが彼女だというのには本当に驚きました。当時の彼女の家族になにが起きたのかに興味を掻き立てられずにはいられません。父殺しを経た彼女が先代原皇の自滅していった時に部下として彼を救えず、やがて2代目原皇の座を手にするに至ったという、その経緯の詳細と心情も知りたくなりました。

また、絵本にすることで自分から切り出そうとした彼女の恐ろしい過去が、マグメル、とりわけフォウル国でどう扱われているのかも気になります。おそらくは輝かしい指導者の汚れた過去として側近により隠蔽されている、あるいは彼女自身が傷として隠そうとしているものなのではないでしょうか。だとするならわざわざ人界で隠れて絵本として表したことがうなずけるような気がします。隠したいが隠し続けるのは辛いというジレンマから、抱えきれない感情を創作物として昇華する行為はさほど珍しくないからです。ただ、ティトールの過去があの世界で明かされているにしろ隠されているにしろ、『群青のマグメル』の読者としての視点を与えられた私たちは、近いうちにその痛ましい真相へ直面せざるを得なくなるのでしょう。