群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第86話感想 ~信頼

第86話 転機 26P

これまで防戦一方だった黒獄小隊とのバトルが、サブタイトルの通りに攻勢に出る転機を迎える回です。鍵となるのはヨウとクー、クーとミュフェの間に築かれた信頼です。

大人数での戦闘が繰り広げられるだけあり、見開きがふんだんに用いられた広がりのある画面構成が楽しめます。

敵の連携

黒獄小隊は余裕綽々ながらも息の合った連携でヨウやクーを追い詰めます。怪我人の上に構造能力が使えない状態だと見抜かれているヨウと死体だと思われているゼロ(ティトール)への攻撃が手薄な分、クーが集中攻撃を受けます。黒獄小隊は喰い現貯めるでの吸収に時間のかかる三重合構での攻撃を複数方向から放ち、クーを追い詰めていきます。

どの隊員も短いながらも個性の出た活躍を見せてくれて楽しいです。この空間の主であるリヴは傍観者的に気のない応援をしていますし、妻を寝取られたことが第67話で発覚したボーガンは、犯人である糞眼鏡のバールをクーに殺してほしいと口走っています。一応は故意での同士討ちを狙うつもりは無く、不可抗力での死を願うあたり、腐っても仲間なのでしょう。

空間が手狭で、おそらくフレンドリーファイアを避けるためにも銃火器などの派手な破壊構造を黒獄小隊が使えない状況とはいえ、この人数差で善戦できるクーはさすがの実力者です。最後は囲まれて倒され、押しつぶされてしまいますが、結果的にヨウとティトールのための時間稼ぎになりましたし、実力どおりの活躍は見せてくれました。

聖国真類内での裏切り

クーが倒され、ほぼ無力だったため後回しされていたヨウがいよいよ絶体絶命となったちょうどその時に、第86話からヨウとゼロ(ティトール)の構造能力を封じていた手枷の幻想構造が消滅します。

第83話でショック状態に陥っていた捜索隊隊員が、手枷の構造主であるあの聖国真類だったという仕掛けにはなるほどと唸らされました。しかも犯人がミュフェだという点も、さらわれたクーの助けになるはずの人間に力を発揮してもらいたいという動機を考えれば納得です。第83話での含みのある表情は、敵の仕掛けた罠について考えていたのではなく、自分の計画の首尾を見極めていたのですね。長い目で見れば聖国真類の利益になる可能性があるとはいえ、身内に故意に危害を加えたと発覚すれば信頼を失うことは必至でしょう。犯人は侵入者かもしれないと考えて憤る真類の仲間に同行しながらも、クーの身のみを一途に案じ続けているミュフェの姿からは強い覚悟が伝わってきます。

聖国真類と人間とフォウル国の皇の信頼

ミュフェがこれだけ思い切った行動に出られたのは彼女が他のどんな同族よりもクーを愛し信頼しているからであり、さらにクーが異種族であろうとヨウを信頼しているからです。ヨウとティトールも、仲間かは微妙であっても、利害が一致するなら迷いなく手を組めるくらいには信頼関係が築けています。

こうした勢力をまたいだ信頼は、黒い瞳のヨウである拾因には得られなかったものです。彼ははぐれものたちと種族を越えて仲間になることはできましたが、国などの勢力には背を向けて逃げてしまいました。人界とマグメルの全面戦争は1つの世界を滅亡させるまでに至り、結果として彼の守ろうとした仲間さえも失われてしまいます。黒い瞳のヨウと『群青のマグメル』の主人公であるヨウ、2人の共通と相違は、仮面という小道具とともに、今回の扉絵で端的に表現されています。

この作品の主人公であるヨウは、現在の信頼が生んだこの好機を間違いなくとらえて、仲間の命を救ってくれるはずです。

ヨウとティトールが人数で劣る中で黒獄小隊に反撃するためには能力と状況を最大限有効活用する必要があります。手狭で逃げ場のないこの空間なら、ヨウの巨変の能力は敵を圧倒し得るはずです。体調を考えると持久戦は分が悪く、なるべく速やかに潰し尽くしたいところでしょう。ただし、救援が到着する前にリヴを殺害するなどしてこの空間が解除されてしまうと、カーフェの前に放り出されるのでかえって危険かもしれません。また、カーフェが救援隊をクエスタの巣に誘い込もうとしていることも気がかりです。まだまだ山積みの障害を越えていかねばなりません。