群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第87話感想 ~遥かな場所、遥かな相手

第87話 逆襲の手 26P

2019/06/28 文章を修正

引き続きヨウが目の前の敵と戦うバトル回です。しかし冒頭と後半では別の場所にいるキャラクターの確信に迫る情報も出ています。まず冒頭では、ヨウの重要な戦闘手段である神の見えざる手と絡めるかたちで、マグメル深部のヨウからそう遠くない地点のマグメルにいる少年についての描写があります。この少年は第53話でもマグメル外縁の海上のヨウから遥か離れたマグメル深部にいる少年として登場しています。次回への引きの部分では、本体は別の地点で戦闘中のティトールへとヨウが一族の生き残りについて尋ねています。黒い瞳のヨウの記憶から知ったあちらのティトールとこちらのティトールの違いを確認したいようです。

主人公であるヨウ、そう遠くない少年、遥かな夢限境界の拾因

扉絵を兼ねた1P目のナレーションは、神の見えざる手のオリジナルの構造者の記憶についてヨウが考えた内容を表しています。神の見えざる手は元々は「ほかの誰か」の幻想構造です。主人公であるいつものヨウが第53話で神の見えざる手を理解した時、「ほかの誰か」の記憶も同じく理解しています。その「ほかの誰か」とおぼしいマグメルにいる少年は、他人に自分自身を理解されるような感覚を味わいました。この少年は名前はまだ不明ですが、主人公であるヨウ(因又)と拾因こと黒い瞳のヨウに続く、ヨウと同じ外見をした3人目の人物です。やはり同一人物の別個体の間でなら、相手の構造の理解により相手の記憶の理解も進むと考えられます。ただし、ヨウは拾因の記憶はかなり多くを理解できているようですが、この少年の記憶へは断片的に理解しているのみだと今回明かされました。

3人目の少年は主人公であるヨウから理解されるだけでなく、自らもヨウの思いを感じているようです。しかし口ぶりからすると、この少年は現在自分と神の見えざる手を通じて繋がっている相手を、主人公のヨウではなく因果限界のオリジナルの構造者でもあるはずの拾因だと考えているようです。この少年が拾因から指導を受けているらしい様子は第53話で描写されています。遥か離れた場所を繋ぐ因果限界を理解したはずなのに拾因の傍に行く方法が見つからないというのは、単なる距離以外の理由で遥かに隔てられているのかもしれません。現在拾因の死体が時間軸の狂った奇郷である夢限境界にあることと関わっていそうです。あるいはこの夢限境界が、2つの世界か時間軸を拾因が越えられた理由の鍵になるのかもしれません。

眼前の敵

3人目の少年に同行しているゼロに似た少女の後ろ姿から、オーバラップするようにゼロを端末としているティトールとヨウの側へと場面が切り替ります。切れ味の良い演出です。この静的で緊張感のあるムードから、巨大化による反撃を契機にダイナミックな戦闘へとなだれ込んでいく演出も、いつもながら冴えています。

ヨウは十倍巨変で即座に黒獄小隊の1人のスティールを葬ります。スティールは典型的な引き立て役ですが、定番の役割をきっちりこなしており好印象です。第67話の遺言を踏まえた適度にしんみりできる独白は、スティールの最期のキャラ描写として面白いだけでなく、敵幹部の1人を仕留めた手応えを高めてくれます。黒獄小隊たちが仲間を失った痛みをにじまえつつも、プロらしく冷静に対応してくるところも嬉しいです。クーの生存が確認されたことで、ヨウの側も怒りでなく生存のために殺し合う点が強調されて、両者ともにひたすらにクレバーです。ティトールとヨウの会話も芯の冷えた2人らしい信頼のあり方が格好良いです。

黒獄小隊とヨウの対峙の見開きに続く、見開き二連族での攻防の様子は、場面を客観的に見せすぎてシュールな印象が無くはないものの、ロングショットから滴る血液のクローズアップに切り替わり、ヨウとティトールの会話に移る部分のシャープさは流石です。

原皇であるティトールとはぐれ者のティトールの隔たり

緊迫した状況ながら、ヨウはティトールに戦闘と直接の関係がなさそうな質問をします。それはヨウの知る今のティトールと、黒い瞳のヨウの記憶の理解を通じて知ったそちらの世界のティトールの違いに関わる疑問のようです。3人目の少年と気持ちが繋がり、別の世界のことが意識に上がったため聞きたくなったのかもしれません。

「君の一族前世類… 生き残りは本当に君だけなのかい?」というヨウの質問にティトールは「…どういう意味だ?」と感じます。確かに読者として複数人物の視点からの情報を与えられている私からしても意味のよくわからない質問です。ただ、一族の生き残りの有無が、原皇とただのはぐれ者という2つの世界でのティトールの立場の違いに何らかの影響を与えたとヨウが考えたことは推測できます。

第71話でティトールはヨウに今の原皇になる前の初代原皇の部下だった頃の話をしています。この時ヨウは違和感ともつかない妙な気分を味わっていました。原因はやはりはぐれ者だったティトールについての記憶と目の前のティトールが話している内容にズレを感じたせいでしょう。起きた出来事自体に違いがあるだけでなく、ティトールが事実の一部を隠したりごましたりしてた話した可能性もあります。

また、以前に人界でティトールが絵本として表現した過去を信じるなら、少女だった頃に彼女は家族も友達も全てを侵略者に殺害されたはずです。侵略者が初代原皇軍にしろその敵にしろ、支配を受け入れたために初代原皇の幹部にまで出世し今の原皇の地位まで至れたことになります。黒い瞳のヨウの世界のティトールも、最年長のエリンのひとりである点から侵略を生き延びた可能性は高いですが、受け取り方を含めて対処の仕方が違っていそうです。