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『屍者の13月』第14話感想 ~理論と実例、そして実践

第14話 三川で法を説く 38P

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今回の舞台は西暦2020年の三川です。段星煉の受ける授業というかたちで設定の解説と整理が行われました。

西暦2020年の群星たち

解説の多い回だけにアクセントとなる周六晴のアクションには力が入っています。周六晴の我の強さとそれに見合うだけの実力者ぶりは魅力的です。こういう格好良いお姉さんキャラは自分のツボです。ところで中国語では「阿〜」に日本語の「〜ちゃん」にあたる意味があります。そのため「代罪の呆ちゃん」の中国語表記は「代罪阿呆」です。日本人からすると苦笑する名前ですが、中国語で阿呆と書いても単なるあだ名で、アホという意味はありません。『クレヨンしんちゃん』の「ボーちゃん」の中国語表記も「阿呆」だそうです。

またこの時代の主人公である段星煉の意外に癖の強い性格にも興味が引き付けられます。単に気弱で体が弱いだけでなく、尖った攻撃性を秘めているタイプです。いきなり暴力を選択肢に入れるキャラは危なっかしい反面、うまく爆発力がハマれば大きく局面を変える可能性もあります。

今回の解説役である呉山先生も定番の食えない老人ながらいいキャラをしています。

屍者の増え方

屍者の設定で特徴的なのは基本的に屍者自身が屍者を増やすことはできないという点ですね。吸血鬼にしろゾンビにしろ、フィクションのアンデッド系のモンスターは一般モンスターにも仲間や眷属を作る能力が備わっている場合が多いです。しかし屍者を増やせるのは、不屍王という吸血鬼では真祖に当たる存在だけです。また魂を受け継がせることで種族を受け継がせるタイプの魔物が登場する作品もありますが、屍者には基本的にそうした能力はないようです。

こうした性質の擬似的な例外に当たるのが黒山村の三眼です。三眼の神通である借元真目は他人を傀儡化する能力です。傀儡にされた死体は三眼の妖力を帯びるためか屍者に近い性質を得ていましたが、本物の屍者とは体の弾力が異なり力も弱かったようです。

力の誘惑に負ける弱さ

三眼は白小小に借元真目を貸しました。しかしあくまで自身の意識喪失によって操作権までもを貸すことができただけです。借元真目が白小小の天賦の神通になったわけではありません。白小小が法屍者になったわけでもありません。日本語版では改変されましたが、中文版では第6話で三眼自らが借元真目の解説をした際に貸与についても言及していました*1。この神通の貸与とは、符・宝・身によって始祖の法師が門下生も力を使えるようにするのと似たようなものだったのでしょう。

三眼の傀儡となった白小小は致命傷を負ってからもしばらくは意識を保っていましたが、根本的には人間の肉体のままであるためほどなく亡くなりました。もし怪我を負わずに生き続けた場合、力は徐々に消耗して無くなってしまったのか、もしくはある程度残り続けたのかという点は解明されませんでした。個人的には前者かなと思います。

屍者と他作品のモンスターとの違いといえば、吸血鬼や悪魔などが持つ精神操作の能力も基本的に屍者には備わっていないようです。黒山村の村人たちや白小小は三眼の意のままに誘導されましたが、それは屍者の強大な力という誘惑に屈してしまった人間たちの肉体的な、更には精神的な弱さの故なのでしょう。

屍者と世界

こうした屍者や不屍王の性質を鑑みるに、黒山村の三眼・白小小・村人という関係は、世界全体の不屍王・法屍者・一般人社会という関係の縮図になっていたようです。三眼の人間性の欠如ぶりも、屍者が人間を食べるのは自然の摂理と言って憚らなかったのも、メタ的な役割として三眼が不屍王に擬せられていたためでしょう。また三眼は1906年の人間には知りようがなかった基準によって力を貸す人間を一方的に選んでいましたし、万業の血を引き寄せて法屍者になる人間の基準もやはりまだわかりません。ただし周六晴が皮肉ったように、「選ばれし者」が法屍者になれるなどという中二病めいた基準でないのは確かです。

三眼は短絡的ながら悪気なく、むしろ好意で白小小に力を授けました。しかしその暴走を高皓光が止められなかった結果として引き起こされたものは、悲劇に他なりません。魔の力で魔の手段を取った者が得る幸福はかりそめのものでしかないのです。本人にとっては多少の救いとなる面もあるかもしれませんが、結局は破滅的な終わりを余儀なくされます。さらに大勢の他人に不幸で理不尽な死を押し付けてしまう手段でもあります。主人公である高皓光には、黒山村のような悲劇から世界を救える人間になってくれることを期待します。

*1:(日本語版)

操る相手は生きてようが死んでようがどちらでも構わないけどこの眼を通して傀儡と意識が繋がってるから
意識があると体が拒絶反応を起こして四散してしまう
操ることができるのは体だけだけどどうせ操るんだし
はじめから死んでてくれたほうがラクかな

(中文版)

被此目所施放的术法击中之人或者死人,都将成为咱的傀儡,可以控制它们的四肢,可惜只能四肢。所以还是死尸好用。
咱也可以把此目借与傀儡,当然,
只要咱意识健在,就算身体四分五裂。
此神通依然会由咱所控。

(直訳)

この目から放たれる術に当たった人間や死人は、オレの傀儡になって、そいつらの四肢を操れるようになるが、残念なことに四肢だけだ。だから死体の方が扱いやすい。
傀儡にこの目を貸すこともできる、当然、
オレの意識がある限りは、体がバラバラでも。
この神通力は依然オレが制御する。