群青のマグメル ~情報収集と感想

『群青のマグメル』と第年秒先生を非公式に応援

群青のマグメル 第3話振り返り感想 ~家族の夢

第3話 魍魎の花 20P

原題:魑魅之花(直訳:魑魅の花)

まず依頼人であるクリクスの体の弱さと、彼に配慮しながらマグメルの目的地へ向けて進むヨウの姿が描写されます。この話の後半でもヨウは用を足すと言ってクリクスに見られないようにブリンズホークを駆除しますが、これも気が弱くてまだ少年のクリクスに残虐な光景を見せないためですね。前回の巨大な虫を人間ごと一瞬で駆除した時も、初めて読んだ時はヨウの強さが恐ろしさのように感じられましたが、思い返すとクリクスに気付かれてショックを与えないように気を使っていたことがわかります。ヨウもクリクスも同じく少年と呼ばれる年頃ではありますが、ヨウは年齢の割にはかなり大人びていて、ヨウ自身も自分のことを少年という枠では考えていないようです。

クリクスとヨウの会話の中で、クリクスの事情の詳細と彼の家族がかつてマグメルに抱いていた夢が語られます。いつか家族4人全員でマグメルを探検するという素朴で美しい夢でしたが「化物」によって両親が殺害されて、その夢は砕かれてしまったというのです。クリクスはたった1人の家族になってしまった兄のことを大変慕い、2人でマグメルを探検するという願いを現在の夢として大切にしています。こうしたクリクスの夢は探検家の正の側面を体現したものとなっています。ちなみに「化物」に両親が殺されたというのはクリクスの兄がついた嘘だと後に判明するのですが、「マグメルの本当に恐ろしい存在」に両親が殺されていたということを考えると、言い訳のつもりである意味本当のことを言ってしまっているのが読者にはわかります。

クリクス一家のキャラクターデザインは非常に考えられたものになっています。顔の傷や筋肉で気付きにくいですが、よく観察するとクリクスと彼の兄の顔の作りはよく似ていていて、見れば見るほど彼らが兄弟であることを感じさせます。14Pの最後のコマの目も一瞬クリクスの目のように見えますが兄の方の目ですね。よく似ている中にも兄がやや父親似、クリクスがやや母親似と絶妙な描き分けがなされていて、この4人がたとえ何があろうと血のつながった家族であることが強く読者に提示されます。だからこその夢の残酷な結末について語られるのが次の第4話です。

 

 今回の話で日本語版で留意しておくべき事情は「联合国」という言葉の訳についてです。ジャンプ+に掲載されている第3話では「国連」という言葉が出てきて国連旗も登場しますが、コミックスに収録された第3話ではこれらの要素は「連合国」というものに入れ替わっています。原文で使われていた言葉である「联合国」とは現代中国語では「国際連合(United Nations)」を指します。しかし後の話で「联合国」は裏で神名阿一族に支配されているという設定が出てくるので、マグメルの世界と現実の世界の区別を明確にするために、日本語版では「国連」という言葉を使うのをやめて「連合国」に差し替えたのだと思われます。

また日本語版では、ウルフラディッシュの原文での説明の際に可食時間の非常に短い性質と対比される形で提示されていた「エポナの涙は長期保存が可能」だという情報が省略されています。これは同じく日本語版で省略されたある要素の伏線となるものでした。