群青のマグメル 第10.5話振り返り感想 ~今は何週目の宝探しゲームの最中か
第10.5話 ゼロの夢 20P
原題:去放松一下(直訳:少し緩くいく)
この話は日本では第10.5話として発表されましたが中国ではダーナの繭編の後に番外編として描かれたもので、番外編という分類にこそなっているのですが、実は初期の時系列へある程度話を進めから入れたくなったのであろう伏線をねじ込めるだけねじ込み直した非常に重要な回となっています。
まず中文版では第24話が初登場となるルシスと助手の女性が拾人館に接触を図り、早い段階で神名阿一族がヨウたちに関心を持っていたことが示されます。ルシスが責任者であるリア号が法の枠を超えてマグメルの物品を扱う商船だということも、背後に潜む神名阿一族の性質をそのまま表したものになっています。
そして伏線として一番象徴的なのがリア号の宝探しレースゲームとそれに続く鍵探しが完全に第33話の宝箱探しと対比構造となっている点です。
第33話の宝箱探しとは鍵だけが渡され、いい加減なヒントをもとにマグメルに隠された宝箱を探すというオーフィスがプロデュースした冒険です。
この話の鍵探しとは中身の入った宝箱が渡され、万全のサポートを受けてマグメルに隠された鍵を探すというルシスがプロデュースした冒険です。
この話では1番目の賞品としてまず宝箱が提示され2番目の賞品として鍵を出すことで不自然に感じにくくはしてありますが、秘境で宝箱でなく鍵のほうを探す冒険というのはこれ以外にはそうは聞きません。第年秒先生は第10.5話と第33話の違いを際だたせるためにあえてここまで明確に対比させたのでしょう。ではここで際立った違いとは何でしょうか?それはゼロの冒険に対する反応です。
この話のゼロは宝探しゲームという遊びそのものにはロマンを感じて心躍らせますが、鍵を探さないと宝は手に入らないとわかっても暇つぶしができたことに納得して特に不満はありません。最初から自分の幸せはヨウのそばにあると気付いていて、自分たちは冒険家と一線を引くものだと理解しています。
第33話のゼロは今まさに手に入ろうとしている宝箱の中身に心躍らせ、中身がロマンのない小切手だと知って落胆します。それでも思い直してヨウと共に過ごした冒険の日々が宝物だったのだとどうにか納得しようとします。
第33話のゼロはこの話のゼロが否定した冒険家そのものの行動をしており、考え方もこの話のゼロより幼いように思えます。さらに言えば第33話のゼロの経験だけが知識を除いた形で蓄積された結果、この話のゼロの考え方を持つようになったとさえ思えてきます。外見的な成長でいえば全く逆であるようにしか見えないのですが……。
この話の冒頭ではゼロが幾度最初から最後までやり直したのかもわからない冒険の果てでの遺言をつぶやいています。もちろん「宝探し」RPGの登場人物になりきって、という形式ではありますが。そして遺言を言い終わったゼロにヨウは問いかけるのです。「何週目?」と。