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群青のマグメル第82話感想 ~先代の想い出

第82話 百年の先 16P

今回は本編に戻って第82話です。話も第81話の直接の続きです。ティトールが端末に描かせた自伝的な絵本の内容の詳細が判明します。

一族の想い出

主人公の妖精少女が父親の首を切断したのが明かされる第81話のヒキは衝撃的でしたが、今回はまず絵本の序盤のゆったりした内容から説明が始まります。ひたすらに「普通」の日常が続く部分は、エッチな本が目当てだった青年は退屈に感じられたようです。日記に近いというのもいい意味ではないでしょう。ファンタジーの日常もの・生活ものはそれなりにファンのいる分野なので、ほとんど売れなかったのはアピール力含めティトールの実力不足が原因ですね。ですがその絵本で描かれている日常とは原皇ティトールがただの子供だった頃の日々であり、それを知っている身からするとノスタルジーめいた興味が否応なくそそられます。

ティトールの子供らしい体型や一族の友達と遊ぶ仕草、彼女の能力である仮面の構造に目覚めた様子、一族の親子らしい2人が手をつないでるところ、数々の挿絵には荒々しいタッチであるがゆえに想像力が掻き立てられ、切なささえ感じます。他人の受けを意識してデフォルメされていないからこその生に近い日々の細やかさや実感の描写は、フィクションという表向きのままでも一部の好事家にはたまらない表現となっていそうです。そちらに関心のない読者である若者も、クソ本と評価しつつも妙に惹きつけられるリアルさを心に留めています。

さらに、かつて侵略された一族の当事者が、自身を主人公のモデルにして今は失われた里の日々を描いたという点を踏まえて良いとするなら、その資料的価値は計り知れません。個人的に、今まで出てきたマグメルの秘宝の類の中では一番手に入れてみたいと思いました。

父親と先代原皇

第81話で発覚した惨劇の詳細も説明されます。ティトールの一族はかつて商売上手で富を持っていましたが、他の種族のエリンに侵略されたのです。富は全て奪われ、ティトールは家族も友人も全て殺されてしまいました。第71話によれば一族にはそれなりに生き残りがいるようですが、身内が殺された中ティトールが助かったのは、彼女が一族の中で数千年ぶりに現れた構造者であり、侵略者にとっても利用価値があったためなのかもしれません。ティトールは全財産と切り取った父の首を侵略者に差し出して忠心を示し、配下に加わったようです。第81話を読んだときはティトールが父を殺害したのかと思いましたが、今回を読む限りでは侵略者に殺害された父から首を切断したほうがありえそうです。

気になるのは家族を裏切って侵略者の側につくのにティトールがどの程度積極的だったのかという部分です。脅されるようなかたちで生き延びるために泣く泣く行ったのか、したたかに自分から強者に取り入ったのか。それは現在原皇として戦う彼女の思考にどう影響したのか、黒い目のヨウとともに逃避を続けた彼女とはどう違うのか。多くの点に関わります。また、この侵略者というのが先代かつ初代の原皇の率いるフォウル国やその前進だったのかも気になるポイントです。もしそうなら、一族や家族に害をなした彼に対するティトールの憎悪は相当なもののはずで、自滅した先代原皇としての彼に対する侮蔑やわずかにうかがえる思慕をあわせて考えると、かなり複雑な感情が渦巻いていることになります。ただし、侵略者をさらに侵略し、ティトールを開放したのが先代原皇である可能性もあります。この場合、かなりストレートにティトールは先代原皇を尊敬していそうです。

先代当主への贈り物

現在ティトールは2人の神明阿当主と戦うので精一杯ですが、さらにもう1名加わるようです。新たに目覚めた神明阿ヘクスは、第46話の当主たちの顔と照らし合わせる限りでは210代目でしょう。209代目の神明阿アススの次の代です。神明阿一族は複数の候補の中から当主を選ぶようなので、ヘクスがアススの息子や孫とは限りませんが、2人に面識はあると考えられます。現にヘクスはアススに対して何らかの思い入れがある様子を見せています。ティトールがアススを不意打ちで攻撃し殺害に大きく関与した件が、気の進まぬ複数人での攻撃に加わることをヘクスに踏ん切らせたようです。ヘクスはティトールとの戦いをアススに贈るつもりです。

現状ティトールは絶体絶命ですし、この場の全員がそうですが、どんな末路を迎えようと自業自得です。それもあって彼女が現在人界で端末に描かせている絵本の続きには遺言めいた思いが加わっていそうです。しかし美しく死ぬのも悪者の魅力ですが、彼女の性格からすれば汚く生き延びても魅力を見せられると思います。何よりここでティトールに死なれるとゼロの体が維持できないので、ティトールにはどうにか再び生き残って欲しいですね。