群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第49話感想 ~神に擬く力に挑む

第49話 頂点たる者 20P

追記 原題:巅峰之人

今回は前回から引き続いての迫力ある戦闘描写が中心の回です。まずアミルからの逃走直後で重傷を負っていながらも、ダメージを表に出さずに音符付きの気楽さを装ってゼロに対して話しかけられるヨウの姿は逞しいものです。生死の境で積み重ねた経験の確かさがうかがえます。反面、その経験といま直面している危機を思うと、まだ少年らしく線の細さの残る姿との不釣り合いさには胸の締め付けられるものがあります。ウエストバッグに入る切断された左脚に生々しい重さと痛みを感じてしまうのは、あるいはヨウでなく私の方ばかりであるのかもしれません。

そしてヨウがゼロと共に挑むアススに対する戦闘は、スケールの測りづらい海上ながらも迫力のある演出により緊迫感に溢れるものとなっています。大きさの実感しやすい船とヘリコプターの破壊に始まり、爆発の黒煙とアスス、ヨウの位置関係の提示へと続くことで距離感が自然に飲み込めます。遍く左手とアススの構造の激突の場面でも同心円状に波立つ海面の激しさがその衝撃を迫真性をもって伝えます。非戦闘員とはいえゼロが満を持して登場させた6号ばかりかヨウの活用してきた構造の多くが全く歯の立たない様子には、アススの構造が水という何の変哲もない物体であるがこその底知れなさを感じざるを得ません。鼠を狩る猫のようにアススがヨウの反応を面白がっているおかげでどうにか命は繋いでいますが、この実力差ははっきり言って絶望的ですね。まさしく神に背き、神に似せた新たな何かを生み出そうとしている一族の上祖にふさわしい力を持つ相手です。それでもヨウの諦めずに最も信頼をおく葬送鋼刃で食い下がろうとする懸命さや、刃身の再構造を行いつつの水弾への対処の巧みさには、派手さはないながらも彼の培った底力を確信できます。ゼロも、コントローラーが消滅せず6号本体も消滅していない可能性があることや、6号の背面に随机(ランダム)と読める文字がありまだ使われていないギミックがあると推測できることから、もしここではないとしてもきっと活躍できる場面があるのでしょう。今回ばかりは打ち勝つ方法どころか振り切る方法さえ私には見当もつかない相手ですが、彼らならどうにか乗り切ってくれるはずです。

一連の戦闘では見ごたえのある描写がなされつつも、少年漫画的にいうバトルの楽しさよりも、どう凌ぐのかはたして逃げ切れるのかが焦点になっていることに『群青のマグメル』という作品の特色を感じます。バトル要素の多い作品ではあるものの、ヨウにとっての戦闘は根本的に手段である点が、バトル描写そのものでワクワクさせることを目的としたいわゆるバトル漫画とは異なる味わいを産んでいます。ヨウにとっての強さとはただ強さを追い求めるためにあるのではなく、何かを為すための手段であり、特に「家族」やその想いと共に生き抜くためのものです。ある種求道主義的に強さの高みを目指すバトル漫画に慣れた目からするとヨウの結果主義的な価値観は不真面目にさえ映りうるかもしれません。しかし強さや力を求めるとはどういうことかそれは何のためかという問い掛けは、同じく第年秒作品である『長安督武司』でも中心となるテーマであり、先生のただ斜に構えるだけでない真摯な追究が伝わってきます。単に戦闘能力のみを見れば敵わない相手が多くいながらも、それがヨウの主人公としての瑕には全くなっていないのはそのためです。

ヨウの激闘の他方で、神明阿の残りの当主たちが完成させた擬神構造が目を開き、いよいよ後戻りのしようのない方へ計画が一段会進んでしまったようです。これに関して私が少々読み間違えしまった点があります。前回のラストでヨウが正体について確信を持った対象とはこの擬神構造のことで、これに付随して何が構造されたわけではありませんね。ヨウは擬神構造か類する物を以前に知っていて、その構造をマグメルで行う必要がある理由も知っているのですね。ヨウの考え方こそほぼ理解できるようになったものの、まだ知識については読者が把握していない部分もあり、こういう焦らされ方をする時には少々もどかしくなることもあります。

翻訳について追記

今回は翻訳の細かいアレンジと意訳が概ねプラスに働いていて、緊迫した戦闘の没入感が高められています。

ただ、ゼロの9~10Pの台詞が日本語版では「徹甲砲!」「弾いた!?~弾なのに!」となっているのが

中文版の内容では「随机炮(ランダム砲)!」「弾いた!?~今の徹甲弾は~弾なのに!」なので、

中文版の方が背面でも示されている「随机(随機・ランダム)」なギミックを6号が持つのがわかりやすいのと、発射されるまで弾の種類がわからないという51話のナレーションとも繋がりが良いと思います。