群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第39話感想 ~破滅の回避

2017/06/16 写植の追加について追記

第39話 失敗 20P

追記 原題:未神之狗 (直訳:神明阿の狗/未だ神ならぬ者の狗)

本題の感想の前にまずクーの服の模様について。今回の7ヶ月前のクーの服の模様を見る限り、作画ミスなのか替えの服を持っていたのかはともかく、時期によるクーの服の模様の違いというのは第年秒先生が特に注意を払っている部分ではないようです。つまり伏線ではなさそうだということで、今までこの部分に関して私が書いた内容は的はずれであったようです。

閑話休題

今回は前半の「目標」を巡る3勢力の激突から後半のクーのヨウとの回想と決意に至るまで、緩急がついていながらも緊張感のある流れが滞ることのない完成度の高い1話となっています。状況の提示は前回でほぼ終えている分ドラマの密度を上げることに注力されていて、読んでいて純粋にとてもワクワクできました。

3勢力の激突は既に目標を手に入れた上での敵の掃討を狙う黒獄小隊の副隊長たち、目標を奪おうとし続ける原皇の配下、危険を察知し即座の撤退を決断したクーたちという対比が明快でのめり込みやすく、バトルシーンというよりアクションシーンと言うべき内容ながらも手に汗握って読みました。見開きの使い方も非常に効果的で、間延びせずに最大限の迫力を出しています。

黒獄小隊の隊員が核構造を使用したことから、構造力による黒い渦に包まれたあるいは渦のそのものである目標とは、第35話で神明阿アミルとルシスが言及していた目標と同一の物だとわかりました。黒獄小隊の隊員たち4人は有能さも然ることながら、特に副隊長のにじみ出る性格の悪さが悪役として格好良く魅力的です。副隊長の皮肉のきいた挑発はセンスが良く、翻訳者がかなり気を使って言葉を選んだのを感じます。4人の口調もやり過ぎにならない程度に個性的でいい塩梅でした。隊員同士の会話は短い中にもユーモアがあってこれからのキャラクターの深まりが楽しみです。副隊長の幻想構造は害をなすものの透過を機能として持つようですね。他の3人は現実構造者であるようなので姿を消す(気配を消すことまで含めたいわゆる隠身・隠形に近い概念?)機能も彼のものでしょう(追記:中文版の台詞では、姿形と構造力の隠伏と明言されていました)。総合すると完璧なシェルターの幻想というような能力でしょうか。

また、クーの側も状況の把握の早さ、次善の選択の的確さがきちんと描写されています。激しいバトルを見せていた前回よりもむしろ今回のほうが彼の能力の高さが印象付けられました。目標を奪われ同胞の1人を殺されてと任務は完全に失敗に終わってしまっていますが、最後にヨウとの連絡を考えたことは話の全体を考える上では希望の持てる行動であり、後味の悪さを残さないストーリー構成です。

核構造を回避してからの、クーのヨウとの会話の回想はまさに『群青のマグメル』のストーリーにおける白眉のシーンともいうべき出来栄えです。的確に情感を持って仕上げられた港の風景、吹く風や流れる空気を想像させる長い髪のたなびき、何よりも友への別れの言葉の切なさ。そういった全てがいやが上にも詩情を掻き立てます。「ここでの日々は 我にとってもそこそこ楽しかった」と言っているあたりまでは背を向けていてまだ少し格好つけようとしている分、振り向いてヨウと目を合わせての「我の敵にならないでくれ」とそれに続く言葉が何の飾り気もない彼の本心であることが際立ち、胸に迫るものがあります。そしてヨウたちと離れ一人になったと思ってからの、端正に伏られた目元からこぼれ落ちるような悲しみとヨウに生きていて欲しいという祈り。

あの「彼ら」が別れたのも海の見える場所でのことでした。あの彼も黒い瞳のヨウを見送る際には生き延びてくれることを願ったのかもしれません。しかしそれを願った彼自身がおそらく死んでしまったことを私たちは知っています。彼らは殺し合ったのでしょうか?それとも殺し合うことさえできずに、彼は他の人間たちの手にかかって殺されてしまったのでしょうか?どちらにせよ友の生を願ったはずの彼の死が、願われた友が死に臨んだ一因となったのであろうことは皮肉としか言い表すことができません。

こうしたシリアスを全てぶち壊すのが現在のヨウのマイペースさです。できるのはわかっていましたが、剣に乗って飛んでいるのは改めて見るとすっげえシュールです。からかってやるなよクーは真剣なんだからさ、真剣なほどからかいたくなる気持ちもわかるけどさ、と言いたくなる感じのコメディ的な会話で心が温まります。ここで手渡され、激怒しつつもなんだかんだクーが受け取ったイヤホンが現在もクーとヨウを繋げ続けています。この繋がりによってヨウとクーの敵対に至る未来へのルートは回避できたとみて間違いないでしょう。しかしクー生存ルートが確定したとみていいものかどうか、油断していると痛い目に遭わされそうな作風だけに不安が残ります。

『群青のマグメル』の設定は複雑で一見とっつきづらく思えますが、それも登場人物のドラマを引き立てるためには必要な背景です。私も別に複雑な設定自体が好きなわけではないのですが、それを解きほぐすことで見えてくる彼らの心情とぶつかり合いには惹きつけられてやみません。あの世界とは、ヨウとクーに起こり得るかもしれない未来であり、「彼ら」には既に起きてしまった過去なのです。

ところで核構造を回避する際にクーと密着したミュフェが風圧を表現する線に紛れる形でさりげなく頬を染めているのが可愛らしかったのですが、19Pの1コマ目のクーの頬の斜線も汚れと紛らわしくしてはありますがタッチの違いを見る限りでは実は赤面の表現であるようです。クーは可愛い。

 

写植の追加について

2017/06/16の未明に読み返してみたところ、06/15の夕方には存在しなかった写植が6・7Pの3箇所で追加されていました。

具体的には「三重合構(デルタラクト)!!!」「触れられざる隣人(フラスコネスト!!)」「核構造(アトムラクト)!」という構造名に関する部分です。

能力名は能力バトルでは重要な部分なので気をつけて欲しいところです。

変更後と変更前のスクリーンショットです。

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