群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第88話感想 ~戦う理由

第88話 憧憬 20P

第82話以来のティトールの視点で進む回です。本体での神明阿一族当主との戦いが中心となっています。ただし内容の重点は攻防よりも戦う理由を巡る対話の方に置かれています。

原皇として

前回ヨウが「俺の知る今の君の違いをはっきりさせたいだけさ 君の一族前世類… 生き残りは本当に君だけなのかい?」と言ったことを受けて、どういう意味だ?と感じた端末を含む各地のティトールの行動に迷いが生じます。
神明阿当主のアッシュ・ハーマと戦うティトール本体の動きも鈍ったようで、全力での戦いを楽しんでいたアッシュは不満気です。この際のアッシュの皮肉の言い方に洒落っ気があって面白いです。アッシュは第78話の若返って早々の言動の通りに女遊びにも戦いにも滾るタイプのようです。同行しているハーマは強者である点は同じながらも、女性には正反対にいかにも堅物な態度を取ります。そんな2人の息が合っているのは見ていて楽しいのですが、これも血の繋がりのみを繋がりと感じる神明阿一族としての性質が表れているに過ぎないのかもしれません。

ハーマがティトールに投げかけたなぜ逃げないのかというという問いは、今回の内容の核となる部分でしょう。神明阿一族の第四要塞を壊滅させ、戦略目標を達成したティトールがこの場に留まる理由は確かにありません。アッシュ・ハーマに逃がすつもりはないとはいえ、もしティトールが消耗した状態で策もなく戦いを続けているのだとすれば、自殺的行為と判断されるのももっともです。そうならばアッシュがつまらないと言う通りにティトールのキャラからするともったいない最期になりそうですね。ただ、どの程度本心かは不明ですが、ティトールは楽しく遊んでいるだけだと不敵に言ってくれます。完全構造力がまだ膨大にあると判明したのも頼もしいです。

おそらくティトールが原皇となり現在戦い続けている本当の理由には、彼女の過去が大きく関わっているはずです。冒頭のティトールと父親の回想で語られた「生きるためだけには生きない」という貪生花の花言葉が鍵になるのでしょう。人界での端末の女性は過去を元にした絵本を書き終えたようですし、その詳しい内容が気になります。激闘の本体や端末のゼロとは対照的な、静かでのんきでさえあるやり取りも面白いです。

神明阿当主として

神明阿アッシュ・ハーマの側に神明阿ヘクスが加勢し、三重合構が行われます。アッシュ・ハーマが二重合構を使っていない時でさえティトールは持ちこたえるのがやっとだっただけに、現状はまさに絶体絶命です。

第210代目当主神明阿ヘクスは第209代目当主神明阿アススの次の代の当主です。ただし距離を感じる口振りからすると子や孫などの直系の子孫ではないらしく、「いい教師でもなかった」というセリフが2人の関係についての言及と考えていいようです。当代の当主との直接の血の近さよりも、一族内ならば実力を重視して代替わりが行われているのでしょう。武術の流派の継承に近いものを感じます。振る舞いからして、神明阿ヘクスは先代で最強の構造者でもあった神明阿アススのことを心から尊敬しているようです。アススの殺害に関わったティトールを攻撃するために三重合構でつくりあげた物体が、アススがよく構造していたただの水だというのにもヘクスの思い入れを感じます。それを夢に見た構造と呼ぶのだからなおさらです。ただの水とはいっても完成度は1万%で物理法則を超えているのですから脅威は計り知れません。

この構造によりティトールは今回の最終ページで首が切断された姿を晒されます。生き急ぐティトールの印象が前半で確認されていただけにショッキングな光景です。しかしティトールにまだ物語上の役割が多く残っていることを考えると、何らかの抜け道があって生き延びていると信じたいです。強靭な肉体を持つエリンですし、即死さえしていなければ完全構造力を使って回復できる可能性もあります。