群青のマグメル ~情報収集と感想

『群青のマグメル』と第年秒先生を非公式に応援

第34話までの伏線のまとめ

2016/06/29 微修正

登場人物の違い

因又(インヨウ)・拾因

因又(インヨウ)・拾因

因又(第33・34話)の特徴

  • 黒い髪と黒い瞳
  • 濃色を基調とした装備に淡色のマント
  • 星形のマント留めと星のポイントの入ったグローブ
  • 帽子に四角いキャラのモチーフ
  • 現実構造と2つの幻想構造(因果限界神の見えざる手)の能力を持つ
  • 因果限界とは空間移動能力であり神の見えざる手とは触れたものを巨大化させる能力である

拾因の特徴

  • 白髪と黒い瞳
  • 目とそれ以外の顔立ちは必ずページを分けて描写される
  • 濃色を基調とした装備に濃色のマント
  • 耳(か角)の生えた丸いキャラのマント留め
  • 幻想構造(因果限界)の能力を持ち現実構造との両立を模索していた

因又(第32話まで)の特徴

  • 黒い髪に淡色(金茶)の瞳
  • 淡色(淡カーキ)を基調とした装備
  • 帽子に耳(か角)の生えた丸いキャラのモチーフ
  • 右胸や鞄に星のマーク
  • 私服には丸いキャラのモチーフ、星のマーク、10(拾は十の大字)
  • 現実構造と幻想構造(遍く右手・左手)の能力を持つ
  • 遍く右手・左手はそれ自体が巨大化する手装である

ゼロ

ゼロ

ゼロ(第33・34話)の特徴

  • 能力は不明(通信系の能力を持っていない?)
  • 濃色(黒?)の髪と淡色の瞳

ゼロ(第32話まで)の特徴

  • 探査機の幻想構造である三歩後ろの子供達という能力を持つ
  • 三歩後ろの子供達は中心探査機の1号、モニターの2号、コントローラーの3号、マイク付きヘッドホンの4号、イヤホン型通信機の5号、ラストナンバーで切り札だが未登場の6号の計6体の機器類から構成される
  • トーン(オレンジ色)の髪と淡色(薄い青緑)の瞳

クー

クー・ヤガ・クラン

クー(第34話)の特徴

  • 実物の衣服と眼帯に刻まれる紋章はに膨らむX

喰い現貯める者の特徴

  • 第32話までのクーの幻想構造物
  • 他の現実構造者の構造物を奪い取って自身の構造物にする能力
  • 喰い現貯める者とその構造物に刻まれる紋章はに膨らむX

クー(第32話まで)の特徴

  • 実物の衣服に刻まれる紋章はに膨らむX

ビックトー親子・原皇ブレス・ティトール

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トト・ビックトーの特徴

  • 第32話までのトトは女学生のような服装で10代の外見に思える
  • 第33・34話のトトは自活した探検家であり20代の外見に思える

オーフィス・ビックトーの特徴

  • 第32話までの舞台ではオーフィスは2年前に死亡している

ティトールと原皇ブレスの特徴

  • 両者とも末広がりのツリ目をしている
  • エリン形態のティトールと原皇ブレスのシルエットは角なども含めてほぼ一致する

第32話までと第33話・34話の世界は並行世界?

ヨウの虹彩の色や能力の内容、オーフィスの生死、ヨウ・ゼロは第32話までより年上に見えるがトトは年下に見えることなど、第32話までの舞台と第33・34話の舞台の違いはただの時間経過では説明の付かない事柄が多い。
またエリンと人間の対立が既に完全に表面化しているので単純な過去の話でもない。
並行世界におけるヨウ(=拾因)の過去の話、つまり「世界の敵」である拾因が世界を敵に回す前の話というのが比較的収まりの良い仮説となる。
この場合拾因は一時的なものではあるだろうが同一世界内での空間転移能力だけでなく、おそらく聖心によって並行世界への世界間転移能力を手に入れたことになる。

鍵の持ち主の変遷

第1の鍵

オーフィスヨウゼロ(第33話の4年前)

?→拾因

ヨウ(第10.5話の数年前)ゼロ(第10.5話)

第2の鍵

オーフィストト(第26話の2年以上前)

疑問点

拾因の目的

  1. 死後も能力を持続させていることや死を予見していたような発言から、拾因にとっては自らの死さえもが目的を果たすための計画の一部にすぎない可能性がある。
  2. 拾因はかつて家族を守れなかったことを悔いる発言している。この失った家族が目的に大きく絡んでいるのではないか。
    その家族とはゼロやクーのことか?
  3. もし拾因=並行世界のヨウならば拾因と並行世界のクーはヨウとクーのようにマグメルで出会って友になり一度別れたという仮定が立てられる。
    そして拾因が原因のダーナの繭事件が起こりようがないのでクーが人間界に来ることもなく全面戦争開始時に再会したことになる。
  4. なぜ拾因は人類からもエリンからも「世界の敵」と呼ばれるのか。
    拾因の計画にはどの陣営にも不利益となり世界中を敵に回すような内容が含まれるのか?
    もしくは元々いた世界全体を敵に回したことが第32話までの世界でも知られているのか?

  5. 「世界の敵」である拾因がヨウに「世界を救う」ことを約束してもらった意味とは何か?

ゼロの経歴

  1. ゼロはヨウとクーが幼なじみであることを知らないのでヨウが人界で生活するようになった後にゼロと出会ったのはほぼ確実。
    ヨウが拾人館を設立したことがきっかけでゼロと出会った、もしくはゼロと出会ったことがきっかけで拾人館を設立した可能性がある。
  2. 第31話で拾因の言った見つけたら頼みになってあげてほしい「あの人」とはゼロのことか?
  3. 第10.5話の「さようなら、~、私がいなくてもどうか幸せに生きてください…」はただのギャグでなく平行世界のゼロも同じようなことを言って死んだという前振りか?
    「何週目?」という台詞も意味深と捉えれば意味深。

原皇ブレスの目的

  1. ティトール=原皇ブレスならばその目的は何か。
  2. 拾因の計画と全くの無関係とは考えにくく、対立しているか協力しているかのどちらかだと思われる。
    エリンが1つの勢力に纏まらないことで聖国真類が危機的状況に陥るのか?
    あるいは人類とエリンの全面戦争に歯止めがかけられているのか?

ビックトー親子と拾因の接触

  1. 第24話から第26話のヨウとトトにはお互いにどことなく見覚えがある。
    第31話で拾因の言った「あの父親と娘」がビックトー親子のことなら幼い頃のヨウだけでなく拾因もこの世界のビックトー親子と接触していた可能性が高い。
  2. 2年前のオーフィスの死の原因とは一体何なのか?

クーの今後

  1. 第32話まででクーは人類の文化を学び、第31話ではヨウの願いを聞いて宿敵の神名阿アミルへの攻撃をやめるという行動までとった。
    このクーは今後聖国真類と神名阿一族の対立が激化した際にどういう対応をとるのか。
  2. 聖国真類が人類との戦争を選ぼうとした場合には賛同できるのか?

メタ的な能力の対比

クーは幻想構造者であるが幻想構造の能力で現実構造者と同質のことができ、訓練や物質との相性などの通常の現実構造者の受ける制限を受けずに、多種類の構造ができる。
ヨウは現実構造者であるが現実構造に幻想構造の能力をもたせることができ、既定の能力以外の構造をつくれないという通常の幻想構造者の受ける制限を受けない。
拾因と思われる人物が2種類の能力の幻想構造をつくれるのもおそらく同じヨウと原理によるものか?

第33・34話の勢力図

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引用

1 33話 13P    
2 33話 12P    
3 16話 1P 単行本第3巻(kobo版) 6P
4 30話 20P    
5 31話 1P    
6 24話 12P    
7 9話 1P 単行本第2巻(kobo版) 26P
8 10.5話 19P 単行本第2巻(kobo版) 88P
9 32話 10P    
10 33話 5P    
11 34話 7P    
12 1話 7P 単行本第1巻(kobo版) 10P
13 3話 6P 単行本第1巻(kobo版) 83P
14 1話 7P 単行本第1巻(kobo版) 10P
15 2話 1P 単行本第1巻(kobo版) 78P
16 20話 7P 単行本第3巻(kobo版) 92P
17 7話 3P 単行本第1巻(kobo版) 172P
18 34話 11P    
19 34話 17P    
20 20話 8P 単行本第3巻(kobo版) 91P
21 7話 5P 単行本第1巻(kobo版) 174P
22 23話 8P    
23 11話 20P 単行本第2巻(kobo版) 109P
24 17話 6P 単行本第3巻(kobo版) 31P
25 33話 16P    
26 24話 17P    
27 25話 10P    
28 24話 17P    
29 33話 20P    
30 26話 21P    
31 29話 8P    
第33・34話の勢力図
イン ヨウ 33話 12P
ゼロ 33話 5P
トト・ビックトー 33話 16P
オーフィス・ビックトー 33話 16P
クー(?) 34話 17P
聖国真類女性 34話 19P
ティトール 33話 16P

群青のマグメル 第34話感想 ~彼は世界の敵となる

第34話 過去と今 20P

原題:続・决定过去的未来(直訳:続・過ぎ去りし未来での決定)

2016/06/26 日本語訳の問題点について追記

今回のヨウと呼ばれる人物は現実構造の能力だけでなく、因果限界と神の見えざる手という2つの幻想構造の能力も持っています。前回のゼロが気付いた冒険しつつ拾人館の依頼もヨウが受けられた理由というのは、ヨウが因果限界で瞬間移動していたということですね。ゼロは自分の知らない間に依頼の内容を聞くためヨウがトトと会っていたことが気に食わずトトに嫌味を言ったようです。このゼロが第32話以前のゼロと違い通信系の能力を持っていないために、ヨウとビックトー親子が直接会って連絡する必要があったのかもしれません。

瞳が黒く因果限界の能力を持つ人物というこれ以上ないヒントが出されましたので断言してしまいますが、私は第33・34話でヨウと呼ばれている人物は私たち読者が拾因という名で知っている人物だと考えます。その理由とこの舞台についての詳細は別のページで書かせてもらおうと思いますが、とりあえずこのページで感想を書かせてもらうにあたっては、キャラクターの名前の表記はその時点で彼らが呼ばれているものに合わせておきます。

今回の話の骨子は人類とエリンの間に全面戦争が起こり、それによってヨウとクー(名前は呼ばれていませんがクーに相当するキャラクターであることはほぼ確定なので)の個人的な関係が引き裂かれてしまうことです。クーは聖国真類としての己に自負を持つキャラクターであり、真類が参戦を決めたのなら運命を共にするしかなかったでしょう。エリンの戦士の中にクーを見つけてしまったヨウの衝撃は、見開きで右上から左中央に向かってクローズアップされるヨウの瞳が見つめる先と、右下から左中央に向かってエリンの1人がクローズアップされる流れが、クーの1ページの縦をぶち抜いた見開き最後のコマで合流するという二重のクローズアップ効果をもって表現されています。

ヨウはクーとの関係を知らない仲間の前では平静を装い彼らの避難を優先しますが、最後に自分が空間を超える順番となった時にクーの方を振り向いてしまいます。クーと視線が向かい合い、この大コマの迫力から2人の間に戦闘なりの激しい感情のやり取りが生まれることへの読者の期待が否が応でも高まります。しかし見開きをめくるとあまりの距離に2人は互いの表情を確かめ合うことは出来ず、目線を交えることすら出来ないという現実が描かれます。この距離はその時の2人が置かれている立場の隔たりをそのまま示すものです。ヨウはあまりにも遠くなってしまった幼馴染から名残惜しげに視線を外しその場を去るしかありませんでした。

そしてヨウは人間側の立場さえからも離れ、全面戦争へ完全に背を向けて拾人館の面々と船に乗り逃避行を始めてしまいます。ゼロの言ったとおりに行くあてなどない旅です。それでもヨウは旅を続ければ幼馴染と敵対する以外の答えにたどり着けるということを期待したのかも知れません。それとも幼馴染と既に立場を異にしているという答えから逃げ続けようとしたのでしょうか。第33話の冒頭と似たナレーションが今回の締めにあり、この舞台についての言及がひとまず終わったことが読者に告げられます。しかし私たち読者は彼が何らかの答えに追いつかれてしまっただろうことを言われずとも知っています。彼は拾因であるかもしれないからです。「ヨウ」が拾因と出会った時、拾因の髪は色を失っていました。そして拾因は「世界の敵」でした。

日本語訳の問題では前回オーフィス・ビックトーが「手掛かりもワシが掴んだ」と言ったことになってしまった件へのフォローがないままティトールが中文版通りに「ビックトーの宝」について言及してしまったため会話が若干ちぐはぐになっています。ヨウがビックトー親子の方を見ながらビックトーの宝である小切手をちらつかせて金の話をしていたのも酔狂でこれだけ出せるなら本気だともっと出せるだろうと暗に催促していたからで、その了承の返事としてビックトー親子は得意げな表情をしていたのですが、この点も日本語版ではわかりませんね。

それと日本語版は翻訳の難しいシリアスな会話を省略して代わりに元々あるギャグを水増しする傾向にあるのですが、今回は少々ギャグが多くなりすぎて話のバランスが崩れてしまったように感じます。ティトールのおどけつつも油断のできない雰囲気が消えてしまい、話の骨子であったはずのクーとの離別もむしろ増えすぎたギャグから浮いてしまっています。残ったシリアスな会話もセリフ回しが上手く行っているとは思えません。ティトールの年齢に関する「一两百年」という語も私の調べた限りでは「一、二百年」つまり「百年か二百年」と理解するのが適当だと思います。「千二百年」*1としたのは誤訳ではないでしょうか。

 

追記

今回の日本語訳で一番問題なのは、『群青のマグメル』、というより『拾又之国』のテーマ性が把握できるような訳がなされていないことです。

前回のゼロが14Pから15Pの間に話していた内容は本来日本語版のように軽いものではなく、何があろうともマグメルの富を諦めること出来ない人類の欲望への呆れと諦観、そしてその欲望を負の側面として持つ探検家の救助を生業とし続けている己への自嘲が読み取れるものでした。ここで人類の欲望というテーマが強調されることにより、マグメルへの侵攻に耐えかねた原住者のエリンたちが人類に対して全面戦争を仕掛けるという今回の内容が迫真性を増すことになっていました。

しかし翻訳者は、ビックトーの宝というものをよく理解していないこともあって、その一連のゼロの台詞を単に金儲けに関するものでしかなく今回の逃避行の資金源の会話に繋がるものだと勘違いして訳してしまったようです。当然中文版では人界と全面戦争を起こしたばかりのマグメルで何の問題もなく拾人者としての金稼ぎができると思っているようなヨウの台詞は存在しません。ヨウはこんな状況でも拾人者の仕事を続けようとするかもしれませんが、ここまでに脳天気に宣言できる場面ではないはずです。翻訳者はわかりやすくする意図で台詞を足したのでしょうが、その内容が誤っています。先に述べたとおり、この台詞は本当の逃避行資金源であるオーフィス・ビックトーに暗に資金の催促をするための内容でした。

前回から今回にかけては明らかに発言者を取り違えたと思われる台詞の翻訳が散見され単語レベルでの違いも多く、翻訳者に信頼のある状況ならアレンジとして納得できたこれらの要素も現状だとひどく目についてしまいます。

*1:千二百年を中国語で表すなら一千两(百)年が普通です。調べたところ一部の翻訳エンジン(Google翻訳など)が一两を一、二でなく十二と誤訳してしまい、それにともなって一两百年も千二百年と誤訳してしまうようです。

群青のマグメル 第17話振り返り感想 ~拾因の企み

第17話 二つの死闘 20P

原題:奇人的空想(直訳:怪人の空想)

拾因がどんな雰囲気の人間かというのは幾分か触れられていましたが、今回は拾因が何をした人間なのかというのが焦点の話です。

拾因が聖国真類の領地に侵入してダーナの繭に接触したことが遠因となって人界での萌芽を招いたとクーはエミリアに語ります。中文版のニュアンスだとクーは拾因が繭に因果限界を融合させたのは何かの企みを持ってのことであっても、クスク諸島に転移したこと自体は繭が拾因の気配を追ったことによる偶発的なものだと推察しています。だから付近に拾因とその弟子のヨウがいると考えていたようですが、実はこの時点で既に拾因は死亡しています。では繭はなぜヨウのいるクスク諸島に転移したのかという話なのですが、第27話の日本語版で省略された台詞にクーが拾因とヨウの気配が同じだと語る部分があり、どうやら繭は拾因の代わりにヨウの気配を追ったのではないかと考えられます。もしかしたら拾因は自分がいなくなって繭が成長すればやがてヨウの付近に転移することを予測していたのではないでしょうか。それ裏付けるように繭はまずマグメル付近で直前までヨウがいたスカイホエールに転移しています。だとすればクスク諸島での繭の萌芽は拾因が予め計画していたものなのかもしれません。

他にクーが拾因について語る内容によれば彼には聖国真類には贈り物をしてみるなど友好的に接せないか探っていた節があることや、逃げるのが上手だったことなどの特徴があるようです。私はこれらの要素にも拾因とヨウに共通する部分が示唆されていると感じます。拾因とヨウの共通性は、拾因の死の発覚で有耶無耶になったままの繭に接触した目的と並んで、『群青のマグメル』全体の話に関わるポイントとなりそうです。

エミリアは拾因の謎についてはひとまず深く追求するのをやめ、クーの行動についての疑問点を更に質問します。これにもクーは意外と付き合いよく答えてくれます。まずクーは敵の殺害が目的と答えますが、その敵とはこの時点で読者にはヨウのことかと思わせて実際は拾因と神名阿一族のことですね。そしてこの場面でクーの語った間諜とは喰い現貯める者のことでしょう。クーが喰い現貯める者を自分の一部としてではなく、自分から独立した存在であるように語る場面は他にもあります。喰い現貯める者はクーがやってくるより先にスカイホエールと共に人界に着いていますし、クーと視聴覚を共有して周囲を探ることができます。更にクーと合流したと考えられるものは他にありません。ヨウたちを急襲した人影とクーに関係があるというヒントはこの時語られた内容や両者の特徴的な瞳孔で十分出されているのですが、あの人影が双生タイタンだというミスリードに引っかかったままだと、双生タイタンから距離をおいたクーがあの人影の主人だと気が付くことができません。この場面でクーと喰い現貯める者の繋がりを隠したのはバトルで種明かしをして盛り上げるためでもあるでしょうし、両者の関係には後で詳しく言及されそうな部分があるのでこの時点ではそこを読者に意識されないようにする意図もあったのでしょう。

別の場所でヨウは双生タイタンとの戦いで一徒たちの協力があってさえ苦戦しています。ヨウは双生タイタンに何度攻撃を加えてもダメージを与えることはできないながらも、戦いながら何か別の手段を講じようとします。一方で一徒は自分の実力が通じない相手の登場に動揺します。能力に目覚めてからは完全に自分のペースで攻撃出来ていた分ショックが大きいようです。能力に目覚める前にエリンたちに囲まれた時さえ、自分の身の危険よりも能力の方に関心がいっていた彼にしては珍しく感情が表に出ていますね。

群青のマグメル 第16話振り返り感想 ~拾因の瞳の黒

第16話 拾因の繭 20P

原題:空想之因(直訳:空想の因)

エリン3種族の首領格がヨウの残した文字に好奇心を発揮したばかりに、策略に嵌って爆風に巻き込まれます。第8話で触れていた1時間おきにダーナの繭の壁に穴が開けられるという伏線をしっかり回収しています。プーカ族の首領は同族の他の個体と違って人の服に着替えずエリンらしい格好のままなので、人を捕食するよりも同族を統率することを優先していたようですね。それでいて不敵な雰囲気もあり、生真面目そうな鬼に似たエリンと合わせて、この回で死亡するキャラクターもしっかり個性を出しておくところに第年秒先生の丁寧さを感じます。

ところでエリンたちの気を引くのに使った壁文字ですが、日本語版では「さよなら 張元首!」ー5秒童話となっている箇所は中文版だと「本座从小习武就是为了能在光天化日调戏良家妇女的梦想」ー某漫画となっています。長安督武司の第25.5話の2Pの台詞とほぼ一致するのでここが他の漫画のパロディでなければこれが元ネタで、出版社を移籍したので某漫画とぼかしているようです。日本未発表作品であることと字数の関係で日本語版では変更となったのでしょう。また、変更といえば日本語版の単行本では壁の文字の答え合わせ部分でタッチの台詞が削除されましたね。壁の文字そのものに変更はないのですが、明言するに当たっては問題があったようです。

策で7割のエリンを戦闘不能にした後は残りとの正面対決となります。流れるようなアクションで殲滅していき、一段落ついたと思われたところで新手である双生タイタンが出現してしまいます。ヨウの反応で双生タイタンが第7話のエリンではないことが読者にほのめかされつつも強敵であることには違いなく、再びの危機的状況です。

一方でエミリアはクーとの会話で彼の興味のある構造者がヨウであることを知り、読者にもヨウがこの事件に救助依頼を受けただけでない関わりがあることがわかります。そして拾因という名前が出てきてきます。今まで第7話と第8話で「イン」という名前が意味ありげに触れられてはいましたが、「拾因」というフルネームが出てきたのはこの話が初めてですね。現時点でも謎が多い人物ですが、この時点では子供のヨウと暮らしていたらしいこと以外は全くの謎でした。そんな拾因という人物が、今回のタイトルが『拾因の繭(空想之因)』という言葉であることもあって、ダーナの繭事件に関与していることが読者に明かされていきます。今回の扉絵の人物もヨウと似てはいますが、第8話で描写されたのと全く同じ黒い瞳や、目が描写される場合は他の顔立ちがぼかされる描き方から考えて間違いなく拾因ですね。

今回の2つの伏線はどちらも第8話のものを回収しているので、片方を発見して読み直せばもう片方にも気がつけるようになっています。

群青のマグメル 第15話振り返り感想 ~ヨウは何を殺せるのか

第15話 闘争と逃走 20P

原題:在空想的追逐(直訳:空想での追跡)

前々回のエリンへの不意打ち、前回のエリンの死体を囮にしての背後からの攻防体での奇襲に引き続き、今回のヨウもなりふり構わぬ戦闘を繰り広げます。

ヨウが時刻を気にしてタイミングを図っていることやわざとエリンたちの注目を集めていることで何か作戦があることは示されつつも、今回のメインはあくまでも作戦の過程で必要となる戦闘の方ですね。この回ではヨウに敵対したエリンたちの様々な特徴を見ることが出来ます。個人的に特に興味深かったのは3頭身のエリンの首領個体の移動方法です。走るのに人間の手足に当たる部分は使わずに、枝のようになっている部分だけを接地させるというのはユニークかつ彼らの体型からすると理にかなっています。

今回はさすがのヨウも多勢に無勢であることや、エリンたちと正面から戦うことのできない一徒たちの存在を知られぬよう現実構造者と悟られてはいけないこともあって、かなり苦しい局面を強いられていきます。この状況で敵に手加減などできようがあるはずもなく、たとえ仲間の敵討ちに燃える相手であろうとも人間の言葉を話す相手であろうとも、どんな手を使ってでも殺すことになります。作品によっては主人公では殺害の描写をぼかしたりそもそも殺害に関与させないようにすることも多いですが、『群青のマグメル』では主人公であるヨウが敵の死体を隠蔽する場面まで挿入するという念の入りようで生身の相手を殺していることが強調されます。こうした描写で敵を「倒した」という逃げた表現の許されない世界観が生み出されています。

それでも読者にとってはヨウが殺しているのは所詮エリンであり人間でないということでそれほど残酷さを感じずに読むこともできるのですが、果たしてヨウはエリンが人間でないから殺せたのでしょうか?ヨウにとってエリンとは自分から隔絶した存在だと考えることはできるのでしょうか?

幼いころ人界では一人きりで生きていたヨウにとって一番初めのそして一番仲の良い友とはエリンであるクーです。ヨウはクーが激昂して人界の支配者である神名阿一族を殺そうとした際にもエミリアとゼロさえいなければクーを支持していた、つまり2人で人界の支配者を殺すことさえやぶさかでなかったとかなり思い切ったことを考えています。ヨウは人間とエリンの垣根を超えてクーと仲良くなったというよりも、生い立ちのゆえに最初から人間の立場にさえ属せていなかったために垣根なく仲良くなれたと捉えたほうが良いのでしょう。現在の拾人館という立場も一応は人間側ではあるのですが、事実上神名阿の支配下にある探検家などと違ってどの体制にも属してはいません。

ヨウはこれまでの話でも必要な場合ならば人間の殺害を決断することができました。今回エリンたちを殺すことができたのも、人間でなかったからというわけでなく、あくまで生き延びるために必要だったからという解釈をした方がヨウの人物像を把握する上では適当そうです。おそらくヨウにとって一番重要な基準は仲間か否か、つまり中国語での「家人」か否かといったところになるのではないでしょうか。

群青のマグメル 第14話振り返り感想 ~曲者の人間たち

第14話 宣戦布告 20P

原題:幻想之于空想(直訳:空想における幻想)

初心者構造者の4人の探検家への説明も終わり、今回から対エリン戦となります。一徒は自分の能力発動に成功するなり、まずその情報を利用して自分に構造能力の知識を与えたヨウたちと取引を行おうとするというかなりの曲者ぶりを発揮しますね。それに対してゼロは幻想構造の探知能力で一徒の構造を既に完全に把握していることをアピールして牽制を図ります。ゼロの長めの台詞もこの場面ではただの説明でなく、一徒に対して念入りに自分たちの優位性を誇示するためのものとして機能しています。また、一徒たちは再登場でのバトルが予定されていそうなので、ここで能力をしっかり読者に覚えて貰う必要もあるのでしょう。

この場面では即席のものとはいえ仲間内で一触即発の空気が生じてしまうのですが、ボルゲーネフのギャグが緊張感をいい意味でぶち壊してくれます。ここでは日本語版の能力名のアレンジやルビも上手く決まっており、ボルゲーネフのコミカルな絵と相乗効果を生んでいます。

こうして4人の探検家にとってダーナの繭編で必要なキャラ描写や用語説明は全て出揃い、拾人館との共闘が始まります。この共闘では一徒が比較的肉体に負担の少ない役回りを任されたこともあって、ややゲーム的感覚をもってエリン殺しに手応えを感じている節を見せます。彼の気分が高揚し未知のものへの探究心も高まる中、この時点では全くの未知の物体として拾因の因果限界が1ページ半も費やされて登場します。因果限界はこの時に謎であったばかりでなく、現段階においても拾因の思惑も含めてダーナの繭以上に謎の多い構造物です。

群青のマグメル 第13話振り返り感想 ~言葉を理解するエリンたち

第13話 目覚め 20P

原題:空想阴影(直訳:空想の陰影)

エミリアの口からダーナの繭もエリンも通常はマグメル奥地でしか見られないことが説明され、その両方が市街地を占拠している現在の異常さが確認されます。エミリアとクーの会話はここでも上手く成立せずにクーは高圧的な態度をとり続けますが、やたら高いところへ登りたがるなど妙に愛嬌のある部分は既に見せ始めています。

ヨウたちは構造力の説明を前回の基礎的な段階からある程度実践的な段階まで進めていますが、この部分の説明は翻訳の際に用語の混乱がありわかりにくくなってしまっています。「マグメルに愛された」人という言葉の初出は第7話で、そこでは中文版では「圣洲眷顾」之人という言葉が使われています。「眷顾」とは目をかける、ひいきにするという意味なので第7話での訳自体は妥当です。その部分は構造者を目覚めさせることを目的とした神名阿アミルが9人の探検家の資質について言及する場面であり、第30話の中文版では拾因がヨウと自分の構造者の才能は聖洲から授けられたものという意味のことを述べているので、「圣洲眷顾之人」とは構造者の資質がある人だということと捉えて良いでしょう。

問題は「圣洲馈赠」者という言葉まで「マグメルに愛された」者と訳してしまったことです。「圣洲馈赠者」はマグメルが贈り物をした者という意味で、常人を超えた身体能力を持つ人を指す際に使用された言葉なので、一見この言葉も「圣洲眷顾之人」と同じ内容であるように思えます。しかし正しく読めば強身薬で身体強化している人のことを指す言葉だとわかります。今回の話でも蛍火の身体強化に関するヨウからのコメントで「圣洲馈赠者」という言葉が使われて、既に蛍火が使用していた強身薬と比べると目覚めたての構造力による強化の上乗せは効果が微弱すぎてまだ能力に目覚めた実感が湧かないだろうという意味の説明をしています。しかしヨウが言った「マグメルに愛された」者という言葉と神名阿アミルが言った「マグメルに愛された」人という言葉が別の意味だと日本語版ではわからないので、意味が掴みづらくなってしまったのです。

ヨウたちがこうした会話をしている間にエリンに見つかってしまい、再び事態が切迫します。そしてエリンたちが次々と登場するのですが、これまでの化物然とした描写のされ方ではなく意志のあるキャラクターとしての描写のされ方をしています。特にわかりやすいのが3頭身の種族のエリン達です。この種族は最初に出た3人は体が小さく比較的頭も悪いようですが、今回ヨウに殺された個体は体が大きくややたどたどしいながらも彼らなりの言語的な思考もきちんと出来ています。さらにお頭である個体は体が相当に大きく、おそらく繭の中で見つけたのであろう人間の言語で書かれた本を読んでみるなどかなりの知的好奇心を持っていることがうかがえるほぼ人物描写と言っていい表現があります。エリンたちが一種の「人」であるという事実は『群青のマグメル』においてこれ以降も重要な要素となっていきます。