群青のマグメル ~情報収集と感想

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群青のマグメル第37話感想 ~感情を抑えきる理性

第37話 不穏の火種 20P

前回は怒りの感情も交えてスケルガーゴンを攻撃したように見えたヨウでしたが、結局命は取らずに遠くへ追い払っただけで済ませました。どこか白けた顔をしているあたり攻撃をしてすぐに自分が八つ当たり紛いのことをしたと気が付いて、手を緩めざるをえなく感じたのでしょうね。命拾いしたスケルガーゴンさえも困惑気味で、むしろ特に思うところが無い時のヨウの方がサックリと始末していそうな雰囲気です。

事情を知らないトトの会話でも不機嫌さを引きずるようなことはせずに、努めてごく普通の態度で対応しています。今までのヨウを思い返してみても、感情を込めた行動を取ることはあっても、感情のみに振り回された行動を取ることはありませんでした。その分はじめは掴みどころのないように思えるのですが、一度取っ掛かりを見つけると思いの外ナイーブな心情が理解できるようになります。
同じく考えの読みにくい人物といえば拾因でしたが、ヨウとの会話の回想で少なくとも分別は見た目ほどには荒れ果てていないことがわかりました。特に自分とヨウが別の人間だと承知した上で幸せを願っていると提示されたことは彼を理解する上で大きな意味を持っています。しかし、だからこそ、拾因の端々での感情の覗かせ方が本当にヨウそのものだと感じてしまいました。彼の繊細さと踏み越えられなかったのであろう家族の死を思うに、理性が残っていることにホッとするよりも、悲嘆を内に抑えきれてしまうことに物悲しくなります。拾因は死ぬまでヨウ以外相手の前では仮面を被り続けたのでしょう。

拾因の現在の人間性について疑問を呈する文章をこの話を読む前に書ききっておいて本当に良かったです。拾因が人の道を踏み外す選択をしたのはほぼ間違いないとはいえ、彼のことを興味本位でわざと穿ち過ぎて見るようなまねは私にはもうできなくなってしまったからです。

拾因がオーフィスと接触することで探そうとした人物とはおそらくゼロのことですね。もしかしたらオーフィスとゼロの親族が拾因の世界で知り合いだったのかもしれませんが、背景の不透明さを鑑みるにオーフィスが高い地位を持つがゆえに知り得た何か特殊な事情がゼロにはあるのかもしれません。今回のゼロは読者と同じくヨウとトトに面識があったのを知らなかったということで、ショックを受けている様子が理解しやすくていつもより可愛く感じます。拾因の世界ではトトとほぼ同年代だったことを知っているせいで余計に幼く思えるということもあるかもしれません。ファミレスで皆で食事をしている姿にも親近感が湧きます。

また、一連の会話で神明阿一族の動向を探るという具体的な行動理由がヨウに生まれたことは『群青のマグメル』の展開全体での転機となりうるものです。第一部でのヨウは基本的に受け身な立場でしたし、「世界を救う」という目的もそれのみでは漠然としすぎていました。ヨウが自ら行動を起こすことでこの先どうなっていくのか、期待が高まらざるを得ません。
繊細なヨウパートから打って変わっての久々のクーの出番は、いつもながら印象が鮮やかです。オタク扱いされる掴みからしていい意味であざといと言う他ないです。ちらちら顔見せしていて今回が初の本格登場となる聖国真類の少女のミュフェとの絡みも青い春があまりにも青くて青くて甘酸っぱすぎです!中国で言う青梅竹馬ってやつですね!それにしても『群青のマグメル』の女性キャラはみんな肉食だなぁ。引きも派手なバトルを予感させるものでなかなかに盛り上がります。

一方でこの7ヶ月の間に成長に合わせて新調したのか、服の模様が大人の彼と同じく上に膨らむものとなっていたりと芸の細かい描写もされています。何もしなければ訪れる破綻は少しずつ近づいているのです。