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『屍者の13月』第11話感想 ~新たな光

第11話 千年の交錯 44P

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三眼と運命の導きに従った結果、白小小は亡くなってしまいました。高皓光たちは白小小の命を救うことはできませんでした。しかし両者が出会わずにあのまま三眼に食われてしまうよりは、白小小は安らかな顔で人生を終えることができたはずです。

今回は中文版の《日月同错》第十一回 千年同错 上第十一回 千年同错 下

第十二回 一刻序幕を合体させた内容です。そのため扉絵などの順番を組み替えていますが効果的な演出として活かされていると思います。第十二回 一刻序幕の扉絵は日本語版だと省略されているので、もし見たいなら中文版の公式配信サイトにアクセスして確認することができます。

暮れ初める525年と明け初める1906年

姜明子によれば、高皓光が試みた方法ではやはり白小小の命を救うことは不可能だそうです。せめて第9話で高皓光が逃げずに何らかの働きかけができていたら、運命に抗うすべもあったのかもしれません。しかしもはや死の運命に従うしかない状況となり、痛ましい限りです。姜明子の「人を殺すは易し救うは難し」という言葉は、白小小の行為にも白小小自身にも重く響くものです。

高皓光が白小小の命を救う仙丹を求めて穴を掘る一方、姜明子のそばで白大は友を葬るための墓穴を掘っています。鮮烈な対比には残酷ささえ感じます。そしてとうとう姜明子サイドの時系列が第4話の前半部分に追いつきました。姜明子もやはり傍観者に甘んじるしかない自分に無力感を覚えています。普段ひたすら尊大で他人を良いように使う姜明子にすら、運命を変えて白大を救う方法はないのです。あの性悪男が彼なりに心を痛めている様子は興味深いです。絶大な法力を持つ彼だからこそ、抗い難く残酷な運命という存在になおさら思うところがあるようです。彼の珍しく沈痛な表情や善良な人間の行く末を惜しんだ気持ちは、その常人離れした姿勢や行動原理を理解するにあたっての重要な材料となるはずです。

闇の中の黒山村

白小小の命を救うことができなかったのは彼女が生きる意志を失ってしまったためです。
以前に書いた文章との重複が多いですが、改めて白小小と村の内外の関係について整理します。

第5話で白小小は村の外で生きる意欲を持ってくれていました。しかし彼女は村の価値観と三眼の言葉に囚われ、本当に世界を変える力である誰でも使える力(=科学)とは違う法屍者の力によって村の大人を殺害してしまいました。これは一見彼女を解放してくれたように見えつつも、実際のところ古き悪しき構造そのままに、暴力を振るえる人物と罪人の立場がただ入れ替わったに過ぎないものです。ただし白小小は先祖の借りを子孫が支払うという村の価値観に囚われきらず、子どもたちは殺害せずに、現在の過剰な復讐という罪を背負って子どもたちの刃を受け入れました。白小小が村の外を垣間見ることができたのはそのためでしょう。

村人が立場の弱い人間を犠牲にして生き抜こうとしたことは乱世にはありがちながら、その弱い人間が下剋上を起こしこれまでの借り以上に虐げ返すこともまた乱世にはありがちです。そうした乱世の定めに従って生き抜いた人間が後の新しい世の礎となる場合も珍しくはありません。しかし乱世に自ら身を沈めた白小小は、新しい世の光を見ながらも、そちらで生きようとは思ってくれませんでした。無念さの残る展開です。

ここにはない晴天のもと

それでも、白小小は最期に穏やかな表情を浮かべることができました。ただの夢か、あるいは魂として巡り合ったのかは定かではなくとも、亡くなった両親と再会して笑顔を浮かべることもできました。高皓光は白小小の命こそ助けられませんでしたが、少なくとも第4話で胸に抱いた「そんなのダメだ!両親に会いたいというなら そんな苦しそうな顔してちゃいけない」という決意が結果的に実を結んだのです。高皓光は運命により黒山村に介入し、結果的に大事件の引き金となりました。そして三眼に生贄を捧げた3村の中で黒山村だけが壊滅したことはほとんどの村人にとって不平等で理不尽な天命となってしまいましたが、白小小にとっては高皓光の介入がささやかながらも救いになったと信じたいです。

西暦525年の白家と西暦1906年の白家が交錯する場所は賑やかな街のイメージに彩られています。これは白小小が村の外を見たことを反映しているのでしょう。中文版で三眼は白大に対して「在天之灵(天にまします霊魂)」という決まり文句を使っていましたし、白小小も両親に対してこの「在天之灵」という表現を使っていました。あるいはこの街は白小小の考える「天」なのかもしれません。

3つめの光は星

まさに高皓光の望んだ新しい世である2020年で、1人の少年が高皓光の日記を読んでいます。この少年は第1話から登場していますが、とうとう顔と段星煉という名が明かされました。話の流れからすると彼が3人目の同月令に選ばれた人間のはずです。人となりの詳細に興味をそそられます。

名前やキャラに重ねられた背景からして、高皓光が月、姜明子が日、段星煉が星のイメージを受け持っているようです。

段星煉が日記を読んで痛感した運命の残酷さ、それがこの黒山村のエピソードの主題であるはずです。高皓光も白小小も、さらに姜明子も、まだ運命には抗えずにただ従うしかありませんでした。しかし高皓光は新たに、姜明子は改めて、それぞれに運命の残酷さを実感しましたし、日記を通じてそれを知った段星煉も運命に抗う方法に関心を持ちました。本当の意味ではこれで終わりになどならないでしょう。

運命に操られ、黒山村の大人たちは白小小も含めて皆非業の死を遂げました。彼らもただ憐れまれるだけの人生を送ったわけではありませんが、それでももう少し全員の納得の行く人生が送れても良かったはずです。これから先のエピソードではせめてこの教訓を生かしてもっと幸福な結末を迎えられるよう祈りたいです。