群青のマグメル~情報収集と感想

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群青のマグメル第52話感想 ~想い出の中のあなた

第52話 そばにいますから 20P

私たちの知るゼロが一旦は完全に死亡してしまったことが確定し、辛い展開が続きます。しかしやっと世界の謎が明らかになり始め、謎を解明しきって仕組みを利用できればゼロの運命を改変できるかもしれないと考えてみれば、全く光明の見えない状況というわけでもなさそうです。

まずは第30話で三人称視点のナレーションと伴に影絵的な演出によって描写されたヨウの過去の、ヨウの一人称視点での語り直しとなります。ほぼ正体のわかった拾因の姿を想い出の中で描画できるようになったという意味でも、読者が脆い部分まで含めてヨウの性格を理解できるようになっているという意味でも、今だからこそ込められる情感に溢れています。生き延びるのに不自由は無くともずっと独りだったことで抱える虚ろ、幼いヨウは初めて家族ができ満たされてからようやくその虚ろの形を知り、それが寂しさだったことに気が付くのです。ヨウが拾因にマグメルで与えられた「初めて」の重みを知ると、第3話で兄を心配してマグメルを捜索するクリクスにヨウが言った「大事な「初めて」をいただいて申し訳ないね お客さん」という台詞の味わいも変わってきます。この後の展開をわかっているだけに、今は体の弱いクリクスでも探検家になって兄と一緒に「また」マグメルを訪れられるはずだと、次の台詞でヨウが彼なりの不器用な表現で伝えようとしていることにも切なくなってしまいます。

拾因との別離を経て、2人目の家族であるゼロとの想い出の、第42話で明かされた部分の前後の気持ちが描かれます。拾因から与えられることを知ったヨウの「初めて」与える側に立った相手がゼロだというのは宿命的です。人の面倒を見ることを覚え始めたばかりの苦笑と拾人館を設立し責任を負う立場となったことへの晴れやかな顔を見せるヨウ、おそらく初めてのただただ無邪気なばかりの笑顔を見せるゼロ。子供同士のおままごとのようでありながらも紛れもなく本当の家族である2人の姿が、今はただ儚く思えてしまいます。中文版の「少爷(坊っちゃん)」と「阿零」が、日本語版では「ご主人」と「ゼロ」となり、ご主人とペットの関係に見えてしまうことへのフォローとしての意味が大きそうではありますが、そこからちゃんと上司と部下に変化したと示すことで、2人の関係がそれぞれに尊厳を持つ人間と人間の関係だと日本語版でも伝わるようになったのは喜ばしいです。だからこそ今回も回想された第4話のラストシーンのように、人と人とがぬくもりを感じ合うシーンが成立するのです。

そしてある時は値切りの演技として、またある時は周回中のゲームのキャラへのなりきりとして暗示され続けてきたゼロの死がとうとう現実のものとなります。また、これはこの作品の世界の中で本当に繰り返された悲劇でもあるのです。第33話第34話で登場した黒い瞳のヨウと黒髪のゼロ、その死別に続く形で。こちらのゼロと同じく頭を撃ち抜かれながらもヨウの生を願った黒髪のゼロ、突然脳裏にひらめいた彼女のイメージを端緒に広がっていく黒い瞳のヨウ(と本人かその現実構造である拾因)のものとおぼしいの数々の想い出のイメージの奔流に、こちらのヨウは飲み込まれ混乱します。黒髪のゼロに伸ばしても届かなかった黒い瞳のヨウの右手が、両者ともに黒いグローブを付けていることでこちらのヨウの右手にそのまま重なってくる演出は、ヨウの装備を変えた演出意図がよく考えられていることがわかるだけに容赦のなさが恐ろしいです。ゼロの亡骸を左手で抱えながらも、掴み損ねた何かをまだ掴もうとしているように虚空に右手を伸ばし続けるヨウの姿は悲痛としか表しようがありません。「彼」が掴み損ねてしまったのはむこう側のゼロだけでなく、クー、トト、オーフィス、そして何も知らずに自分を慕う幼いこちら側のヨウでもあります。

何はともあれ、これで今まで仄めかされてはいても確証の持てなかった世界の謎、主要キャラクターが全員二重に存在している理由について、具体的に明かされる時がとうとうやってきそうです。とりあえず拾因が第8話で後悔とともに眺めていた紐のついたあの黒い鍵は、黒髪のゼロの元から彼の方へちぎれ飛んできたこの黒い鍵、またはその現実構造でほぼ確定しました。それは第10.5話で古い友人からもらった物としてヨウからゼロに渡された黒い鍵とおそらく同一の鍵です。これだけたびたび文字通りの鍵となる演出がなされているからには、ゼロの死亡の運命を回避するため鍵でもあると信じたいのですが、その予想の正否が判明するまでにはまだ当分待たなければならないようです。さしあたって今は、実は生きておりまだ残りのあった完全構成力で傷口を修復しつつあるアススに対処しなければなりません。血の繋がらない家族であるゼロの死をヨウに突きつけたのが、妻を殺しても何も感じなかったと自認するアススだという情念の絡み合いの妙には、ただ背筋が寒くなるばかりです。それでもまだ大人とは言えないまでも十分に若者と呼べる年頃までに成長したからには、ヨウの運命はヨウ自身で切り開いていかねばならないのでしょう。ただ置いていかれるしかなかった、拾因の想い出の中の幼い子供ではもうないのです。